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<そこが聞きたい>エシカル消費 山本良一氏

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山本良一氏

東京五輪向け法整備を 日本エシカル推進協議会代表・東京大名誉教授 山本良一氏

 「エシカル消費」という言葉が注目されている。人や社会・環境に配慮した消費行動のことだ。2012年のロンドン五輪、今年のリオデジャネイロ五輪ではエシカル消費に配慮した運営が実施され、諸国の関心が集まった。4年後の東京五輪はどうか。日本エシカル推進協議会代表の山本良一・東京大名誉教授(70)に聞いた。【聞き手・永山悦子、写真・中村藍】

−−「エシカル消費」とは、どのような消費行動ですか。

 「エシカル(ethical)」は「倫理的な」「道徳的な」という意味の英語です。科学技術の進歩と市場経済の発展によって、私たちは現在、大変豊かな消費生活を享受し、お金さえあれば世界中のどんな商品でも入手できます。一方、地球温暖化や資源の枯渇、貧困など、深刻な環境問題や社会問題にも直面しています。既に、日本でも地方の停滞や貧困層の増加など目に見える影響が出ています。私は、地球環境や有限の資源、人々の暮らしを将来に残すために全知全能をあげて取り組む姿勢が「倫理」だと考えます。

 そこで消費者が、自分の利益だけではなく、国内外の人々や子孫にも配慮した商品選択をすることが求められるのです。具体的な対象は、環境に配慮したエコ商品やリサイクル商品、フェアトレード=1=商品、障害者支援につながる商品、資源保護に配慮した認証を受けた商品などです。

−−それは新しい考え方ですか。

 いいえ。欧米では以前からエシカル消費が取り組まれてきました。戦後間もなく、米国でフェアトレードの商品販売や店舗が生まれ、1980年代には欧州でフェアトレードの活動が盛んになりました。日本でも、89年に環境に配慮した商品を示す「エコマーク」制度が始まりました。

 エシカル消費の取り組みに世界全体が注目するようになったのは、12年に開かれた国連持続可能な開発会議(リオ+20)です。貧困や差別、格差など社会問題と環境問題を同時に解決していくことが必要との認識で一致し、「公正で持続可能な消費と生産」が求められるようになりました。

−−これまで日本が取り組んできた「グリーン購入」とエシカル消費の違いは。

 グリーン購入は、製品やサービスを購入する際、環境への負荷ができるだけ少ないものを選ぶことです。01年には国などにグリーン購入を義務付けるグリーン購入法が施行されるなど、日本では環境問題に特化した取り組みが盛んです。欧米はフェアトレードや動物福祉=2=など、日本で十分に進んでいない社会的な問題についても同時に対応を進めています。環境問題、社会問題の双方に配慮した消費行動が、エシカル消費なのです。

−−なぜ日本は社会問題への対応が遅れているのですか。

 一般的な環境問題では、貧困や人権、格差などの社会問題に触れないため、対立点が比較的少なく、受け入れやすかったのだろうと思います。それに対し、社会問題に対する価値観はさまざまで、議論を戦わせて共通認識を構築していくことが求められます。日本人は、討論や議論を経て社会を動かすことが苦手なため、取り組みが遅れたと思われます。

 特に、日本は動物福祉の議論が遅れています。家畜は工場のような詰め込み飼育が大半で、欧米で広がる放し飼いによる畜産はほとんどありません。マグロの乱獲を抑えるために、マグロの握りを出さないすし店が増えてもよいはずですが、聞いたことはありません。環境分野でも、より「深い」取り組みが必要です。実質的な温室効果ガスの排出ゼロを目指すなど、抜本的な変化を起こす議論を始めることが求められています。

−−ロンドン五輪で世界的な注目を集めたと聞きました。

 ロンドン五輪では、第三者機関が持続可能な運営になっているかどうかを監視しました。同五輪期間中にはフェアトレードの認証を受けたバナナ1000万本、コーヒー1400万杯など多くのフェアトレード商品が提供され、リオデジャネイロ五輪でも、同じような取り組みがされたそうです。

 ロンドンは五輪前、国際的な基準に沿って認定されるフェアトレードタウンになりました。フェアトレードタウンは街全体でフェアトレード製品を積極的に購入・販売する自治体です。リオデジャネイロも今年8月に認定されました。しかし、東京では認定に向けた準備すら始まっていません。

−−東京五輪は大丈夫ですか。

 非常に心配です。東京五輪は運営計画案で「持続可能性に配慮する」とうたうものの、内容は具体性に欠け、定量的ではありません。招致時に「(五輪による)二酸化炭素排出の増加ゼロを目指す」としていた目標も後退しています。違法伐採による木材や、乱獲による海産物が入り込まないように第三者機関が監視する仕組みもありません。だれが責任を負うのか不明な体制のままでは、豊洲市場(東京都江東区)の盛り土問題のようなことになりかねません。そこで、国内の各分野の有志が14年に日本エシカル推進協議会を設立し、東京五輪に向けた取り組みの加速を提案し始めたのです。

−−東京五輪に向けて、何が必要ですか。

 国には「エシカル購入基本法」の制定を求めます。20年は、温室効果ガス削減の新しい国際的な枠組み「パリ協定」がスタートする年にもあたり、グリーン購入法など関連法を束ねる制度ができれば、日本の前向きな姿勢を示すことができるでしょう。また、東京都は世界を代表する「エシカルタウン」を目指してほしいです。フェアトレードに加え、エコ、福祉などさまざまな課題に挑む新たな街づくりを提案するチャンスです。

 五輪では、家電リサイクルで出た素材から作るメダル、エシカルな素材や工程で作ったユニホームなどでアピールすることも可能です。小池百合子都知事は、環境相時代に「クールビズ」を成功させました。「エシカル」も主導できれば素晴らしいことです。東京が変われば、日本中が変わります。

聞いて一言

 エシカル購入については、消費者庁も「倫理的消費調査研究会」を設置し、社会への浸透を図るための調査研究に乗り出した。だが、一部の熱心な人に任せておけば良いというわけにはいかない。何より心配なのは、東京五輪まで4年もないこと。今のままでは、日本を訪れる世界中の選手や観光客が「こんなに日本は遅れているの?」と驚く事態になりかねない。五輪に向けてカネや施設整備が話題の中心だが、エシカル購入を当たり前にする社会変容も待ったなしだ。


 ■ことば

1 フェアトレード

 発展途上国で作られる農産物や製品を適正価格で継続的に購入し、生産者や労働者の生活向上につなげようという運動。購入価格が不当に安いと、現地の生産者らが生活に困窮し、自立が阻害される。貧困を原因にした安易な開発行為を防ぎ、自然環境を守る狙いもある。

2 動物福祉

 動物が精神的、肉体的に十分健康で、できる限り痛みや恐怖、ストレスなどの苦痛を受けずに生活できるようにすること。一般に人間が動物を利用することは否定しないものの、家畜、ペット、展示動物、実験動物など人間の飼育下にあるあらゆる動物の福祉の確保が求められる。


 ■人物略歴

やまもと・りょういち

 1946年生まれ。74年東京大大学院博士課程修了。同大教授など経て2010年から同大名誉教授。環境省中央環境審議会委員、国際グリーン購入ネットワーク会長など歴任。専門は材料科学。

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