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<記者の目>憲法改正論議と参院=飼手勇介(政治部)

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参院選での投票率は高知県が全国最低だった。合区が有権者を遠ざけたとの指摘がある=高知市で6月、岩間理紀撮影 拡大
参院選での投票率は高知県が全国最低だった。合区が有権者を遠ざけたとの指摘がある=高知市で6月、岩間理紀撮影

両院関係見直し主導を

 今の臨時国会は、7月の参院選で改憲勢力が衆参両院で3分の2を上回って初めて迎えた国会だ。自民党は安倍政権での憲法改正を目指し、改憲条項の絞り込みに動き始めた。主に参院の取材を担当する私としては、議会制民主主義という国民に身近な制度から憲法を考える必要を感じる。不自然な「合区」の解消など、参院自ら憲法改正も含む改革の旗を振ってほしい。

合区への抵抗感、低投票率に反映

 参院は1947年の発足以来、(1)選挙区は都道府県単位(2)半数改選のため定数を偶数配分−−を基本としてきた。都市部への人口流入で「1票の格差」が拡大すると、参院は地方の定数を都市部に振り替える定数是正で対応してきたが、最高裁は2012年、10年参院選(最大格差5・00倍)を「違憲状態」と判断。「都道府県を単位とする方式を改め、不平等状態を解消する必要がある」とレッドカードを突きつけた。

 このため7月の参院選で導入したのが「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区(定数2)だ。3年ごとの改選数は1で、一方の県は代表を出せなくなった。憲法14条は「すべて国民は、法の下に平等」と定めている。衆参いずれの議員も「全国民を代表」すると定めた現行憲法では、参院でも投票価値の平等が重視されるのはやむを得ない。

 ただ、合区対象県の議員が「過疎が進み、より政治の力が必要な地方が切り捨てられる」と語る危機感には共感を覚える。衆院小選挙区の定数は東京25人に対し対象4県は各2人。参院は東京12人に対し、19年参院選でも当選者がいなければ高知と鳥取の代表はゼロになる。さらなる地方の定数減は妥当と言えるだろうか。

 対象4県の抵抗感は投票率に如実に表れ、島根以外の3県は過去最低を記録。高知は全国最低の45・52%だった。「投票価値が損なわれたという都市部の有権者と、『おらが先生に投票できなかった』という地方の不平等感はどっちが深刻なのか」。合区対象県の議員秘書は語る。参院は19年参院選で一層の改革を求められており、このままでは合区が「石川・福井」「佐賀・長崎」などにも拡大する可能性がある。

 この際、憲法で参院は「地方代表」と位置づけることを検討してはどうか。米国では83年、連邦最高裁がニュージャージー州の下院選で1対0・993の格差を違憲無効とする一方、各州の代表2人で構成する上院は約70倍の格差を認めた。連邦制の米上院には外交などで強い権限があり、日本と単純比較はできないが、2院制のあり方として参考にしていいはずだ。

地方代表明確に改革全体像示せ

 とかく批判の多い自民党憲法改正草案だが、「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案」するとし、人口以外の指標で選挙区を定める方向性を示した。日本は他国と比べて国と地方の密接な協力が必要とされ、都道府県代表を国政に送る意義は少なくない。憲法で「衆院は議院内閣制の基盤」「参院は地方代表」と明確化すれば、多様な制度の構想が可能だ。参院はその格差を是認する以上、衆院とほぼ同等の権限の見直しも避けられない。自民党草案はそうした議論に踏み込んでおらず、同党にはまず参院改革の全体像を示してもらいたい。

 与野党が最も突き詰めて憲法を論じた成果は05年の衆院憲法調査会(中山太郎会長・当時)の報告書だ。2院制の改革論として、参院が否決した法案の衆院再議決の要件(3分の2以上)の緩和▽参院の問責決議の抑制▽会計検査院の参院への付属−−など改革案を示しており、今後の議論の出発点になりうる。

 参院の取材で驚くのは、ベテラン議員も「このままでは参院は埋没する」という懸念を隠さないことだ。衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」では「強すぎる参院」が問題視されたが、安倍政権が13年参院選でねじれを解消してからは、昨年の安全保障関連法の審議など、参院の「カーボンコピー化」が強まったと感じるのは私だけではないはずだ。参院を地方代表と位置づけるならば、地方の利害に関する法案は、各州代表からなる連邦参議院が同意しなければ成立しないドイツの例も参考になるだろう。

 自民党がこれまで「1県1代表」を主張してきたのは、厚い地盤を持つ地方の議席を維持する狙いからだ。一方、反発する野党はブロック制の導入を主張するなど平行線をたどってきた。憲法改正論議の道筋は定かではないが、衆参の憲法審査会は「政局を持ち込まない」ことが基本だ。党利党略を排し、参院の選挙制度や権限という2院制の根幹について、腰を据えて取り組んでほしい。

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