SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ショパン・コンクール』『気まぐれ星からの伝言』ほか

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今週の新刊

◆『ショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く』青柳いづみこ・著(中公新書/税抜き880円)

 アスリートならオリンピック、作家なら芥川・直木賞、若きピアニストなら目指す頂点は『ショパン・コンクール』。1927年創設以来、5年に1度、ワルシャワで開催され、多くのスターと多くのドラマを生んできた。

 ピアノと筆を両立させる青柳いづみこが、2015年大会を現地からつぶさに批評的にレポート。同時に、この祭典の歴史と特徴も振り返る。まずは「実は出場するだけでも大変なこと」が、読者に知らされるのだ。

 DVD審査を経て、予備予選から本大会へと、振り落とされていく。何が勝敗を分けるのか。明確な図式はない点、悲喜劇が生じる。「つくられた優勝者」はないのか。審査員にもインタビュー。芸術審査の難しさが分かる。

 「楽器がザクザク鳴って鳥肌が立った」等、演奏のレポートの臨場感が素晴らしい。コラムでは、演奏者のハンカチの扱い方の違いを指摘するなど、ユーモアで肩の凝りをほぐす好読み物だ。

◆『気まぐれ星からの伝言』星新一・著(徳間書店/税抜き1800円)

 生涯に1001編ものショートショートを書きあげた世界でも特異なSF作家が星新一。今年生誕90周年を記念して『気まぐれ星からの伝言』が編まれた。小説、エッセイ、翻訳、インタビューなど初収録たっぷりの一冊。

 隠れた名作としては「夜の音」。訪問者のあるはずのない山の奥の別荘に、なぜかくり返されるノックの音。その正体は? 一読で深く印象に残り、人をファンタスティックな気分にさせる。星作品以外でこれは味わえない。

 現代作家による書き下ろしの星新一論もある。新井素子は、ネットのない時代に、コンピューターが電話で「声の網」を作るアイデアの独創性に驚く。しかもそこに人間の持つ「秘密」を暴き出すことにも成功している。

 星はSFについて「人類をより高くすすめるものは、へんな考えかたなのだ。/へんな考えかたのことを、想像力ともいう」と書いている。星新一の作品が面白くなくなった時代は恐ろしい。

◆『昭和なくらし方』小泉和子・著(河出書房新社/税抜き1600円)

 「昭和」と名のつく本を多数執筆するのが小泉和子。『昭和なくらし方』では、カラー写真を多用して、「電気に頼らない、買わない・捨てない、始末のよいくらし」(帯文)を提言する。それは逆向きの考え方ではない。むしろ「手の力を奪い、物を作る力を奪い、感じる力、考える力、生きる手応え、生きる喜びを」奪う今の暮らしから、積極的に抜け出すための「くらし方」なのだ。梅干しを漬ける。はたきをかける。竈(かまど)でご飯を炊いてみる。みんな「昭和」でやってきたことなのだ。

◆『9回裏2死満塁』玉木正之・編(新潮文庫/税抜き670円)

 明治期、神田の大学南校に来日したアメリカ人英語教師が、バットとボールをもたらし、少年たちにベースボールを教えた。玉木正之編『9回裏2死満塁』は、日本野球150年の歴史を、男たちが一球に賭けた瞬間を、文章で集めたアンソロジー。夏目漱石の野球論は『吾輩は猫である』より、青バット大下弘の美文の随筆、桑田真澄の早稲田大学修士論文は「飛田穂洲(とびたすいしゅう)の野球哲学」、金網の向こうは海という伝説の「洲崎野球場」の思い出を書く虫明亜呂無(むしあけあろむ)など、野球はじつに幅広い。

◆『永六輔の伝言』矢崎泰久・編(集英社新書/税抜き740円)

 今年急逝した永六輔と半世紀ものつき合いになる、元『話の特集』編集長が、晩年の永への取材と著作から、本人になり代わって出来たのが矢崎泰久編『永六輔の伝言』だ。中学時代から三木鶏郎のラジオ「日曜娯楽版」に投稿、それが認められ放送界入り。やがて放送作家、作詞家、司会と存分に才能を開花させていく。その途上で出会った野坂昭如、小沢昭一、坂本九、中村八大たちとの交友話は、何度聞かされても面白い。反戦の思いなど、国の将来を憂える声も収録されている。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年10月30日号より>

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