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内田光子モーツァルト弾き振り 〝本質を捉えた解釈者〟が協奏曲に新たな光

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内田光子(C)Decca/Justin Pumfrey
内田光子(C)Decca/Justin Pumfrey

【内田光子withマーラー・チェンバー・オーケストラ演奏会】

 英国を拠点に世界的な活躍を続けるピアニストの内田光子。彼女は日本国内のホールの中で、とりわけサントリーホールと札幌コンサートホールKitaraの音響を高く評価し、定期的にコンサートを開いている。今年はマーラー・チェンバー・オーケストラを弾き振りしてモーツァルトの協奏曲を中心とした2種類のプログラムによる協奏曲の夕べと同オーケストラの腕利きメンバーとともに室内楽の夕べを開催する。

 モーツァルトの作品に関して〝音楽の本質を捉えた解釈者〟として国際的に定評のある内田だが、ここ数年は自ら指揮も務める、いわゆる弾き振りに力を入れており「協奏曲の夕べⅡ」(Kitaraでは「夕べⅠ」)で取り上げるピアノ協奏曲第17番と25番はクリーブランド管弦楽団とレコーディングを行ったばかり。今回のプログラムもそうした取り組みの一環であり、日本のファンの前でそれを披露する意図について筆者の取材に内田はこう語ってくれた。 

 「K.453(第17番ト長調)とK.503(第25番ハ長調)はクリーブランド管弦楽団とレコーディングしたばかりの曲目だったことに加えて、マーラー・チェンバー・オーケストラと共演した直近の作品でもあります。クリーブランドとはモーツァルトのピアノ協奏曲のレコーディングを何度か行っていますが、この2曲はぜひとも録音しておきたかった作品です。両作品には強い関連性があり、私は素晴らしいプログラムだと思います。K.503はモーツァルトのピアノ協奏曲の中では最も雄大な曲です。ベートーヴェンの〝皇帝〟に匹敵するスケール感を持つ、ということができるかもしれません。一方、K.453は大変軽やかで表面的には異なっていますが、実は第2楽章は心の底深くにおいてK.503とつながっていると思います」

 一方、「協奏曲の夕べⅠ」(Kitaraでは「夕べⅡ」)で演奏する第19、20番については「作品番号は飛んでいますがピアノ協奏曲としては連続して書かれた作品で、この2曲にも関連性があります。K.459は1784年の年末に完成しており、K.466は85年初めに作られています。作曲の時期が近かっただけではなく、実際に同じことが起こったりもします。事前に玉手箱を開けてしまうのは嫌なので具体的にどこかはあえて言いませんが〝アレ? どこかで聴いたことがあるな〟と気付かれる方もいるはずです。また、K.459の最終楽章のフガートは大変複雑怪奇に書かれています。これに強い興味を持ったのはベートーヴェンだったと思います。彼のピアノ協奏曲第3番ハ短調にもフガートが出てきますが、モーツァルトの方がより不規則に書かれています。一見、明るく楽しく、軽やかに動いているようですが、その裏側は複雑にひねくっている。これがモーツァルトのすごいところです。K.466は彼が書いたピアノ協奏曲の中で最もドラマチックな作品です」とその魅力を語ってくれた。

 今回共演するマーラー・チェンバー・オーケストラには厚い信頼を寄せ、このところ共演を重ねているが、その理由についても説明してくれた。

 「マーラー・チェンバーは私が作らんとしている音楽に対する反応がとても速い、ということがひとつの要素です。弾き振りしている際にハッと新しいアイデアを思いついた場合、誰かが以前のように弾いたら困るわけで、彼らにはそれはありません。指揮者がいないので、目で見るのではなくお互い耳で聴き合って即座に反応できる人たちなのです。そして音楽を作るということに対して根源的な部分での〝心〟を明確に持った集団でもあります。彼らがその〝心〟の中で一丸となって求めているものと私が作らんとしている音楽に、どこか共通性があるのだと思います」

 世界中の名門オーケストラやホールから引っ張りだこの内田の演奏を、それも彼女自身が今弾きたい演目を理想の形で聴くことができる絶好の機会。秋の夜長にじっくりと腰を落ち着けて堪能してみたいコンサートといえよう。

 なお、サントリーホールにおける3公演は同ホールの開館30周年記念のスペシャル企画として開催される。

(宮嶋 極)

昨年11月の「内田光子ピアノ・リサイタル」=写真提供:サントリーホール
昨年11月の「内田光子ピアノ・リサイタル」=写真提供:サントリーホール

公演データ

【内田光子with マーラー・チェンバー・オーケストラ 演奏会】

ピアノ&指揮:内田 光子

管弦楽:マーラー・チェンバー・オーケストラ

 

■協奏曲の夕べⅠ  Kitara

10月28日(金)19:00 札幌コンサートホールKitara

モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番ト長調 K.453

バルトーク :弦楽のためのディヴェルティメントSz.113

モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ヘ長調 K.503

 

■協奏曲の夕べⅡ  Kitara

10月30日(日)17:00 札幌コンサートホールKitara

モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459

武満 徹   :弦楽のためのレクイエム

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466

 

■協奏曲の夕べⅠ  サントリーホール

11月4日(金)19:00 サントリーホール大ホール

モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459

武満 徹   :弦楽のためのレクイエム

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466

 

■協奏曲の夕べⅡ  サントリーホール

11月8日(火)19:00 サントリーホール大ホール

モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番ト長調 K.453

バルトーク :弦楽のためのディヴェルティメントSz.113

モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ヘ長調 K.503

 

■室内楽の夕べ

10月31日(月)19:00 札幌コンサートホール小ホール

11月5日(土)17:00 サントリーホール ブルーローズ

ピアノ :内田 光子

ヴァイオリン:イタマール・ゾルマン

フルート :キアラ・トネッリ

オーボエ :吉井 瑞穂、ほか

 

モーツァルト: フルート四重奏曲第1番 ニ長調 K285

武満 徹 : アントゥル=タン -オーボエと弦楽四重奏のための

シューベルト: 華麗なるロンド ロ短調 D895

メンデルスゾーン: 弦楽八重奏曲 変ホ長調 op. 20

 

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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