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今週の本棚

三浦雅士・評 『籠の鸚鵡』=辻原登・著

 (新潮社・1728円)

 面白い。一気に読ませる。感動とか感銘とかは一時代前の文学趣味だったと思わせられる。教養小説風の主人公が存在しないからだ。登場人物のすべてに感情移入できるが、みな俗人なのだ。偽善的な理想を失った時代の核心を衝(つ)いている。

 時は一九八〇年代半ば、所は和歌山市周辺。物語は下津町(現海南市)役場の出納室長・梶康男のためいきの場面から始まる。和歌山市の歓楽街で一人立ち寄ったバー「バーグマン」のマダム・増本カヨ子からの三通目のラブレターを読んでのことである。これが露骨なポルノグラフィーで、これだけでも一読の価値がある。梶は罠(わな)かと疑うが、誘惑に負けて足を運び始める。ポルノグラフィーには伊東静雄の詩「わがひとに与ふる哀歌」が引かれていたが、梶はそれに応えるように、バーで吉本隆明の詩「涙が涸(か)れる」を朗読し、カヨ子を感激させる。「とほくまでゆくんだ」という言葉で新左翼を魅了したこの詩が、ポルノグラフィーと並べられるのである。教養小説風の主人公が存在しないことと見事に呼応している。

 カヨ子には暴力団の男・峯尾宏が付いていた。山口組系末端の地元暴力団・春駒組の若頭(わかがしら)である。ショバ代の徴収に来てカヨ子と関係を持ったが、些細(ささい)なことから、じつはカヨ子が店を出すにあたって、不動産業を営んでいた夫・紙谷覚が書類偽造で得た金を使っていたことを突き止めて恐喝し、一児あるにもかかわらず二人を戸籍上離婚させていたのである。峯尾はさらに、梶が役場の出納室長であることに目をつ…

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