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東京 和のたくみ

 最新のファッションやサブカルチャー、IT(情報技術)、超高層のオフィスビル群など、東京にはさまざまな顔があるが、江戸の昔から脈々と続く「職人の町」もその一つだろう。道具をつくり、素材を整え、ゆっくりした時間のなかで日々、手を動かしている職人たち。技術革新や大量生産で安価な製品が増えたり、生活様式が変わって使われなくなったりして、昔ながらの手仕事は縮小の一途だが、後継者問題に頭を悩ませながらも、職人たちは新たな道を模索している。一方で、手仕事のぬくもりにひかれて路地裏の工房を訪ね歩く若者や海外からの観光客が増えるなど、その魅力が再発見され始めてもいる。東京の伝統工芸の職人を訪ね、匠(たくみ)の技を紹介する。

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(6)くず餅――天野充雄さん「分からない時は、自分の腕を疑う」

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 朝もやのような白い湯気の向こうから、ベルトコンベヤーに乗った四角いせいろが整然と流れてくる。手前で待ち構える天野充雄さん(54)が、リズミカルな仕草でせいろをひっくり返すと、平らな板状のくず餅がぷるんと震えた。天野さんは、江戸時代から続くくず餅の老舗「船橋屋」の工場長。昔風に言えば親方だ。くず餅の作り方は、親方から弟子へと代々引き継がれてきた。

 天野さんの右の手のひらと指の皮膚はとてもなめらかで、指紋はほとんど消えてしまった。蒸したての、100度近いくず餅に毎日触り、弾力の微妙な違いを確かめているためだ。くず餅の表面で中指と人さし指を軽く弾ませ、波紋が広がるような「揺れ具合」をみる。店に入って3年目に始めたが、約30年たった今も「分からなくなることがある」と言う。

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