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SUNDAY LIBRARY 岡崎 武志・評『まわり舞台の上で 荒木一郎』『籠の鸚鵡』ほか

今週の新刊

◆『まわり舞台の上で 荒木一郎』荒木一郎・著(文遊社/税抜き3200円)

 荒木一郎への聞き書きによる『まわり舞台の上で 荒木一郎』がとにかく面白い。2世で俳優、自ら曲を書き歌う音楽家といえば、同時代に加山雄三もいるが、彼を陽とすれば荒木は陰。その陰影の濃さが際立っている。

 キャリアの原点は昭和20年代のラジオドラマ。やがてNHKドラマ「バス通り裏」で人気者になるが、台本がつまらないと自分で書き直した。映画も音楽もプロデュースも、すべて細部まで自覚的であった点、無自覚な加山とみごとに対照的だ。

◆『籠(かご)の鸚鵡(おうむ)』辻原登・著(新潮社/税抜き1600円)

 1969年の強制猥褻(わいせつ)致傷容疑での逮捕で、荒木はスキャンダラスな存在となり、芸能界から干される。しかし、クサることなく、ポルノ出演で特異な存在感を示し……と、一カ所にとどまらぬ自在な才能を示していくのだ。

 ショーケンの相手役でしかなかった桃井かおりを、主役のイメージにプロデュースしたのも荒木だった。とんでもない人のとんでもない人生が凝縮されている。

 1980年代半ばの和歌山が舞台。町役場の真面目な出納係が、スナックのホステスの色仕掛けで巨額な公金横領をやらかす。その背後に不動産業者とヤクザがからみ、三つどもえの金と色をめぐる抗争が始まった。

 そう書けば『籠(かご)の鸚鵡(おうむ)』は、小説雑誌に掲載されたエンタメ系の作品と思うだろう。しかし、掲載誌は『新潮』で、著者の辻原登は芥川賞作家だ。どうなっているのかと不審を持てば、もう著者の術中にはまっている。

 ホステスが出す春画つきの手紙には吉野秀雄の歌が引用され、出納係・梶は吉本隆明の現代詩「とほくまでゆくんだ ぼくらの好きな人々よ」を引用する。言葉の攪乱(かくらん)が、ありきたりな小説世界にとどまることを阻止してしまう。魔術的トリックと言ってもいい。

 暴力もセックスも殺人も出てくる。しかし、和歌山の山深い空気がそれを鎮めて、読者はこれまで読んだことがない小説と出会ったことを確信するだろう。

◆『荒あら汐しお部屋のモルとムギ』ゆかい・著(リトルモア/税抜き1300円)

 猫の写真集など、もう見飽きたと思うだろう。これを見る前、私もそうだった。しかし、ゆかいの写真による『荒汐(あらしお)部屋のモルとムギ』は違う。モルとムギは、東京・日本橋浜町の相撲部屋「荒汐部屋」に飼われているのだ。力士と猫、このミスマッチが、本写真集を独自なものにしている。モンゴル出身の若い力士もいて、部屋を始めた頃は大変だったが、「モルが来てからだんだんよくなってきたんです」と、おかみさんは語る。猫を抱く力士たちが、みんないい顔をしている。読者もみんな、いい顔になりそうだ。

◆『乳房の神話学』ロミ/著(角川ソフィア文庫/税抜き1200円)

 いくら男女同権といったって、女は、男にはないふくよかなふくらみを胸に持つ。ロミ(高遠弘美訳)『乳房の神話学』は、人類と美しきふくらみの関係を、風俗と文学に表れた事象から読み解いていく。古代にあっては豊饒(ほうじょう)の象徴だったが、14世紀初頭には、純白な乳房が、詩人や芸術家に霊感を与えた。19世紀パリでは露出趣味がおしゃれの一つになる。おっぱいが、それほどさまざまなイメージを時代にもたらした。大収集家の著者が集めた、多数の図版もまた、眼福に与(あずか)るところ。

◆『クー・クラックス・クラン』浜本隆三・著(平凡社新書/税抜き800円)

 1960年代のアメリカ映画を見ていると、黒人差別の場面で、目の部分をくりぬいた白い三角頭巾の集団が、迫害やリンチを加える場面が出てくる。「KKK」と略称される『クー・クラックス・クラン』という白人至上主義結社だ。南北戦争直後に組織され、最盛期は数百万人に達した。今なお、全米で5000人もの会員がいる。浜本隆三は、日本では知られざるこの組織の歴史と正体を、豊かな知見で明らかにする。その向こうには、やまぬ排外主義の潮流が見えてくるのだ。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年11月20日号より>

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