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ヒバクシャ

’15秋/1 那須正幹さん 3人組は平和の申し子

<千の証言に寄せて documentary report 189>

     「ズッコケ」完結もペンは置かぬ 那須正幹さん(73)

    「ズッコケ三人組」シリーズ最新刊の表紙見本を手に、シリーズを終える思いを語る那須正幹さん=山口県防府市で2015年10月27日、矢頭智剛撮影

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     戦後の日本が守ってきた非戦の国の在り方が、自衛隊の米軍支援活動など海外派遣の道をひらく安保法制で一変した。国連の軍縮総会では核兵器の禁止に向けた法的取り組みを呼びかける決議に、日本政府が棄権を決め込んだ。そうした戦後70年秋の記録報道「ヒバクシャ」は、戦後の国内児童文学界最大のロングセラーシリーズを終結させる作家の反骨の決意、新たに登場をしていただく3人の方の胸の内の思いをお伝えします。

     1978年の第1作刊行以来、累計2500万部以上読まれた「ズッコケ三人組」シリーズが、12月発売の最新刊でいよいよ終わる。山口県防府市の自宅に10月下旬、作者の那須正幹(まさもと)さん(73)を訪ねると「安全保障関連法は憲法違反だし、廃止にしなければならない」と語気を強めた。3歳の時に広島で被爆し、戦後の民主主義教育を受けてきた那須さんは、集会などで「戦後70年間の歴史を大転換する悪法だ」と安保関連法に反対してきた。

     小学6年の仲良し男児3人組が主人公のズッコケシリーズは、2005年から「中年」になった3人に引き継がれ、子育てや介護など40代が直面する問題に葛藤しつつも、変わらぬ友情で切り抜けていく。だが、最新刊の執筆中に安保関連法が成立。変わりゆく日本を目の当たりにし、那須さんは後書きにこう記した。

     <ズッコケの3人組は、平和と民主主義の申し子だった。彼らがあれだけ元気に駆け回れたのは、平和で民主的な日本だからであって、これからの日本はあまりいい時代にならないんじゃないか。そういう時代に生きる彼らは書きたくない>

     那須さんは言う。「安保法だけじゃない。マイナンバー制度なんかも国家による個人の管理そのものじゃろ。国立大学に日の丸・君が代を強制しようという動きもある。一つ一つ見れば、今はわろうて(笑って)済ませられるものかもしらんが、全体で見ると、おぼろげながら今の日本社会が向かおうとしているところが見えてくる。気づいたら、息苦しい世の中になっていた、なんてことになるんじゃないか」

     もっとも、ズッコケが終わってもペンを置くつもりはない。「日本人は忘れっぽいからなあ。60年安保も、70年安保も批准されると潮が引いたように反対運動も無くなってしまった」と嘆く作家は力を込める。「安保関連法反対の声は上げ続けないと。僕は物書きじゃから、物語にするか、エッセーにするか、とにかく書いて伝えていくしかない」。那須さんの目が光った。

    非戦、輝きは今  「無関心…息苦しい国に」

     「おやじの遺品を整理していたら、ぼろぼろになった憲法の本が出てきたんよ。あっちこっちに赤線が引いてあって」。「ズッコケ三人組」シリーズを終える那須正幹さん(73)の中には戦後、父親から聞いた憲法の話が根付いている。

     広島で教員をしていた父茂義さん(1978年に79歳で死去)は70年前のあの日、教え子を捜して原子野を歩き回り、2週間後に帰って来た後、1年ほど寝込んだ。父が勤めていた女学校では約300人の生徒のうち30人が原爆で亡くなった。そのこともあって、体調が戻った後も教職に戻ることはなかった。那須さんは「戦中は軍国教育をしていたわけだし、一種の責任を感じていたんじゃないか」とその心中を推しはかる。

     会社員となった茂義さんからは新しい憲法の話を聞かされた。「これからはデモクラシーの時代になるんじゃ」。亭主関白だった父が「家族会議」を開き、「お父さんに意見がある人は言ってごらん」と言い出した。那須さんが通った小学校では何でも「学級会」で話し合って決めた。「絶対に戦争をしない国になる」と聞き、子供心に「すごくいい国になるんだな」と思った。

     「子供自身がいろいろな問題を解決していく物語にしたかった」。78年から続いた「ズッコケ三人組」で描いたのは、自身の子供時代そのものだ。やんちゃな「ハチベエ」、のんびり屋の「モーちゃん」。本が好きで理屈っぽい「ハカセ」のモデルは那須さん本人だ。「僕らは民主主義の一番いい時代を生きてきた」。3人組はそれを体現していた。

     当初は読者の子供たちから届くファンレターも3人を自分たちに重ねる内容だった。それが90年代ごろから変化してきたという。「言いたいことを言える友達がいてうらやましい」「3人は私たちができないことをやってくれるので楽しいです」。気付けば子供たちを取り巻く環境も様変わりしていた。ズッコケの世界と現実との乖離(かいり)を感じた那須さんは2004年、50巻でシリーズを完結させた。

     その翌年、ファンの熱意に応え、40歳になった3人が主人公の「ズッコケ中年三人組」がスタートした。毎年12月、1歳ずつ年を重ねた3人を描いて刊行してきたが、50歳になる来月で今度こそ最終巻を迎える。

     「いい国になる」。子供のころ、そう感じた日本は那須さんにとっていつの間にか息苦しい国になりつつある。安全保障関連法が成立し、反対運動の一方で、世論調査では約3分の1の国民が無関心であることに強い危機感を覚える。「多くの戦後世代は民主主義と平和を空気のように思うとるからね」

     だからこそ、那須さんは改めて決意する。物語で「戦争」を描くことで、若い世代に自分たちのこととして戦争や平和を考えてもらいたい――。それは戦後、「戦争をしない国」を担ってきた世代の責務だと感じている。<文・上村里花/写真・矢頭智剛>=つづく

    人物略歴 ◇なす・まさもと

     3歳の時、爆心地から約3キロの広島市西区の自宅で母と共に被爆した。今年は沖縄戦や満蒙開拓青少年義勇軍などに参加した少年兵を主人公にした物語を書き上げた。反原発活動などにも取り組む。

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