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今週の本棚

磯田道史・評 『渡邉洪基-衆智を集むるを第一とす』=瀧井一博・著

 (ミネルヴァ書房・3780円)

 この本は「忘れられた初代東大総長」渡邉洪基(わたなべひろもと)の評伝だが、それ以上に、近代日本の「知」の歩みの陰影ある姿を記している。二十五年前、私は大学一年で奇妙な講義を目にした。藤田祐幸という物理学の講師。彼は黒板一面にヒマワリと雛菊(ひなぎく)の絵を描き、いった。欧州の知はヒマワリの如(ごと)く土台が広い。社会ともつながっている。日本の知は雛菊。花びらの間口が狭く、たこ壺(つぼ)にこもった専門研究者ばかり。ちょっと専門が違えば会話も不成立。政治社会に開かれた議論はしない。政談ばかり、すれば干される。そういって、この先生は福島第一原発(1F)が古くて危ない、と盛んに悲憤慷慨(ひふんこうがい)していた。当時は奇異に思ったが予言は的中。その原発は爆発。風の便りに、藤田先生も今夏亡くなったときいた。

 政談をしない。専門を狭く掘り下げる。学会(ソサイアティ)内で活動し、その評価を重視する。日本の知的風土には、たしかに、そのような傾向があるかもしれない。しかし、日本史家として日本の知の動きを観察した場合、明治初期から、そうであったとはいえない。ある時期、具体的にいえば、明治十四年政変前後から五年後の帝国大学創設を経て、この国はそうした知のあり方へ向かっていったように感じていた。誰が、どのように、…

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