SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『古本屋ツアー・イン・京阪神』『坊っちゃんのそれから』ほか

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今週の新刊

◆『古本屋ツアー・イン・京阪神』小山力也・著(本の雑誌社/税抜き1800円)

 日本全国津々浦々の古本屋を踏破リポートし、同好の士を驚嘆させた小山力也が、首都圏沿線、神保町編を経て『古本屋ツアー・イン・京阪神』では京都、大阪、神戸、阪神間、奈良、滋賀へ。足と目でつぶさにリポートする。

 各エリアを、主要店は見開き2ページ、その他を「まだまだあるぞ古本屋」と、店の特色と主人の横顔、買った本を二段構えで伝えている。「(古本屋での人気作家が)ギラリと目立つ。値段はジャストな隙(すき)ナシ値。だが安い本もちゃんとあると扉をこじ開け」と、古ツア節がうなる。

 京都「古書善行堂」店主との対談では、東京と関西の違いを「関西は昔ながらの古本屋然としたお店と、若い人たちが始めた新しいタイプのお店と、二つに分かれている」と解説。2016年最新の事情がこれで分かるのだ。

 それにしても、知らない店が多い。滋賀「旧八幡郵便局」は、骨董(こつとう)店として使われ、古本もあるという。何もそこまで!

◆『坊っちゃんのそれから』芳川泰久・著(河出書房新社/税抜き1600円)

 今年は漱石没後100年とあって、あちこちに文豪の名が躍る。

『坊っちゃんのそれから』は、漱石の代表作二つを掛けたタイトルだが、胸のすく痛快作『坊っちゃん』の『それから』を引き継いで書くという試み。

 著者の芳川泰久は、プルーストなどの研究者として知られる。松山で大暴れし、明治28年秋の東京へ戻った「無鉄砲」な若者は、松山では名乗らなかったが、「多田鉄之助」という名が与えられる。同行する「山嵐」堀田銀蔵とはここで別れるのだが……。

 不動産業を経て街鉄の運転手となった多田は晴れて清と二人暮らし。堀田は幼なじみのスリと出会ったことで、幸徳秋水、片山潜らと大逆事件に巻き込まれていく。日清、日露を経て関東大震災前夜の東京は騒々しく、ひどく多忙であった。

 のち刑事となる「坊っちゃん」より、激動を一心に受ける「山嵐」の活躍が作品を盛り上げる。もう一人の「坊っちゃん」だ。

◆『山梨県早川町 日本一小さな町の写真館』鹿野貴司・著(平凡社/税抜き3800円)

 西を静岡県と接する、山梨県南アルプスの小さな町がある。1130人と人口は日本一少ない。その町と人に惹(ひ)かれて、写真を撮り続けるのが鹿野貴司。『山梨県早川町 日本一小さな町の写真館』を開けば、町に暮らす人たちに会える。麦わら帽をかぶり、丸椅子に腰掛け、農作業をするおじいさん、歯がきれい。獅子舞に頭を優しくかまれるおばあさん。吊(つ)るした熊を見つめる男性。札を次々と筆文字で書き上げる僧。森の中のツリーハウスで遊ぶ子どもたち。こんな町に旅してみたい。

◆『汽車旅放浪記』関川夏央・著(中公文庫/税抜き800円)

 明治期の千葉県で鉄道は東京との連絡を期待された。私鉄の総武鉄道が国に買収されたのは1907年。この会社の取締役に志賀直温がいた。志賀直哉と相克する父親である。北陸トンネル開通まで地理的に不利だった敦賀(つるが)に鉄道が敷かれたのは、そこがシベリア鉄道を結ぶ大陸航路の港だったからだ。「鉄道ファンはえてして瑣末(さまつ)なものを好む」と書く関川夏央は、『汽車旅放浪記』に、その「瑣末な」知識を喜々としてつづる。『雪国』『点と線』『津軽』と文学を結ぶ旅行記でもある。

◆『最終戦争/空族館』今日泊亜蘭・著 日下三蔵・編(ちくま文庫/税抜き1100円)

 1910年、東京生まれの今日泊亜蘭は、佐藤春夫門下で戦後にデビューした作家。SF黎明(れいめい)期に幻想を交えた特異な作品を発表し、後世に大きな影響を与えた。日下三蔵編『最終戦争/空族館』は、未発表作をはじめ、単行本未収録短編14作を収録した文庫オリジナル。人間嫌いで、忠実な女性型ロボットと2人で、惑星を転々とする地球人技師を描く「ロボット・ロボ子の感傷」、友人を追って木星に「天空船」で旅立つ青年の話(「空族館」)ほか、いずれも現代SFの先駆を成す作品。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年11月27日号より>

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