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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 本城雅人 『紙の城』

終わるのか、変革し生き残るのか? 新聞ジャーナリズムの“今”を問う

◆『紙の城』本城雅人・著(講談社/税抜き1600円)

 新聞社を舞台にしたダイナミックなエンターテインメント作品が生まれた。問題意識はきわめて時事的だ。「紙の時代は終わった」というキャッチフレーズは数年前から響きわたっている。そんな状況のなか、IT企業からの買収宣告を受けた新聞社、窮地に立たされた記者たちを本城さんは描いた。

「正直に言えば、僕は紙の文化を守るべきだと考えているタイプです。ただ自分が今の時代に逆行する“アンチ”だとも自覚しています。だからこそ、本作を『新聞社は無事に守られました、めでたしめでたし』という結末にしたくありませんでした」

 元“新聞屋”の自己満足小説を書いても誰の心にも響かない。新聞社はもう、楽観主義やポジティブシンキングで生き残れるほど安全な場所にはいないのだ。“アンチ”である存在がどう変化し、成長し、そして自らの居場所をみつけていくのか。そういう発想で、記者たちを動かし、新聞社の向かう先を考えた。

「ですから、買収に乗り出したIT企業の面々を、一概に悪として描いてはいません。むしろ買収側から新聞の既得権益を明らかにし、グローバル経済の動向に揉(も)ませることで、記者や新聞社の意義を浮かび上がらせるようにしています。軽減税率の話は、昔の同僚が読んだら顔をしかめるかもしれませんね」

 本城さんの前身はスポーツ新聞の記者。記者は大学時代からの憧れの職業だったと言う。

「誰も知らないことを最初に知る。それが新聞記者のいちばんの魅力です。記者は事件を解決することはできない。警察のように事件現場に入ることはできませんが、警察官や目撃者から話を聞いて現実の断片を拾い、そこから想像力を膨らませ、真相をたぐり寄せる。それが記者の仕事であり使命感でもあります」

 新聞には二つの役割があると、本書にある。事実をいち早く知らせる速報性と、事実について記者が意見を述べる批評性だ。

「インターネットの普及によって速報性の需要が高まるなか、新聞社は迷っています。本書にも登場しますが、定年を迎えた団塊の世代にどう新聞を読ませるかを議論する“007会議”は、僕が実際に経験したこと。また、新聞社によるポータルサイト事業の展開は、新聞社の大きな転機になるはずだと僕自身が90年代末に感じていたことです。厳しい状況下で、今こそ記者が発揮できる機能は何か。そこを本当に悩みました」

 “紙の城”である新聞社。旧弊のなかに生きる記者たちに、本城さんは実にクリエーティブな仕事をさせた。この画期的な試みは、本書の読みどころであり、本城さんの思い入れが反映されてもいるだろう。

「書き終えて、やはり記者に生き残ってほしいと思いました。記者一人ひとりが財産なんです」

 いい記者は顔が近い。そう本城さんは言った。情報は文字や画像で流れていくが、その源流には必ず人間がいる。表情を見逃さず、口ぶりから本音を読みとる。本城さんの底にある記者精神が働いたのだろう。読み進めるほどに、記者たち、新聞社の重役勢、IT企業の経営陣、それぞれの顔がありありと見えてくる小説だ。

(構成・五所純子)

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本城雅人(ほんじょう・まさと)

 1965年、神奈川県生まれ。明治学院大卒業。産業経済新聞社入社後、産経新聞浦和総局を経て、サンケイスポーツの記者に。著書に『ノーバディノウズ』『球界消滅』『トリダシ』『ミッドナイト・ジャーナル』など

<サンデー毎日 2016年11月27日号より>

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