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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 恩田陸 『蜜蜂と遠雷』

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勝ち抜くのはたった一人 残酷で華やかなコンクール

◆『蜜蜂と遠雷』恩田陸・著(幻冬舎/税抜き1800円)

 新人の登竜門と呼ばれる芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む4人の演奏家を描いた本作は、意外にも、音楽好きのイメージの強い恩田陸さんにとって初の本格的な音楽小説だ。

「もともと音楽コンクールもののドキュメンタリーが好きなんです。優勝者が一人しか出ないコンクールは、残酷であると同時に華やかなドラマ性があります。その最初から最後までを描き切ってみたかった。でも、ここまで長い時間がかかるとは思っていませんでした(笑)」

 完成までに12年を費やした。3年ごとに開催される浜松国際ピアノコンクールに4回通い、すべての演奏を聴いたという。何度も通ううちに演奏の聴き方も変わり、ピアニストの気持ちが理解できるようにもなった。

「実際にコンクールに参加したことのある人たちから、共感したと言ってもらえました」

 4人の演奏家のうち、伝説の音楽家ホフマンに見いだされた風間塵は、養蜂家の父とともに各地に移り住み、正規の音楽教育を受けるどころかピアノも持たずにいる。一方、若くしてデビューした栄伝亜夜は、母の死をきっかけにステージから逃亡する。亜夜の幼なじみで華やかな演奏をするマサル、最年長の明石と、4人は性格も演奏のスタイルも異なる。

「コンクールを見ていると、すごく上手(うま)いのに聴いているうちに飽きてくる演奏者がいます。逆に、亜夜のようにコンクールの最中に成長する人もいます。音楽の天才にもさまざまなタイプがいるんです。才能ってなんだろうと考えさせられますね」

 本作には演奏者以外に、審査員やステージマネージャー、調律者、ボランティアなど、コンクールの運営を支える人たちが登場する。

「ジャンルは違いますが、私自身、新人賞に応募して小説家デビューし、いまは新人賞の選考委員をつとめています。だから、選ぶ立場の怖さも知っています。この作品では審査員のナサニエルを書くのが一番楽しかったです。不器用なところが好きです(笑)」

 一次予選から本選まで進むにつれ、演奏する曲の難度は上がり、彼らの演奏をどう描写するかも難しくなっていく。

「一人一人が演奏するプログラムを決めるのには、すごく時間がかかりました。塵ならここでこういう曲を弾くだろうと決めて、書く前にその曲を繰り返し聴きました。現代曲の『春と修羅』は架空のものですが、こういう曲があったらいいと思って書きました」

 なお、各章のタイトルは「ずいずいずっころばし」「魔法使いの弟子」「『仁義なき戦い』のテーマ」など、実際の曲名から採られている。

「ノリノリで決められました(笑)。出来上がってみると、これもまた、ひとつのプログラムになっていますね」

 最終的に誰を優勝させるかは、恩田さん自身にも、最後の最後まで分からなかったという。

 本作で、音楽を小説で表現する可能性を感じたと語る恩田さんだが、「当分、音楽小説は書きたくないです。やっぱり聴いているほうが楽しいので」と笑った。

(構成・南陀楼綾繁)

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恩田陸(おんだ・りく)

 1964年、宮城県生まれ。92年、『六番目の小夜子』でデビュー。2005年、『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞を受賞。近作に『夜の底は柔らかな幻』『EPITAPH 東京』『ブラック・ベルベット』など

<サンデー毎日 2016年12月4日号より>

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