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米大統領選で国民の不満や不安を取り込んだドナルド・トランプ氏(70)が勝利し、ポピュリズム(大衆迎合主義)が国際政治の潮流となったことを決定付けた。年末から来年にかけて国政選挙が相次ぐ欧州連合(EU)諸国では、排斥主義を掲げる極右勢力が勢いづいている。「トランプ・ショック」は止まらない。
◆来年1月就任
トランプ氏は来年1月20日、第45代米大統領に就任する。自由貿易の旗振り役であり、世界の安全保障に強く関与してきた超大国の米国。トランプ氏が掲げる「米国第一主義」が世界に与える影響は計り知れない。
政治経験も軍歴もないトランプ氏は選挙中、グローバル化に置き去りにされた白人労働者階級らの支持を取り込むため、強硬な主張を連発した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱▽不法移民の強制送還やメキシコ国境での巨大な壁建設▽日本など同盟国のための軍事負担を背景にした同盟の見直し--。就任後にどこまで実現させようとするのか。世界各国の注目は続く。
◆来秋 連邦議会選
ドイツの新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)。国政初進出を狙う来年秋の連邦議会(下院)総選挙では、現連立政権を構成する2会派に次ぐ、第3会派になる可能性も浮上している。
AfDはEUによるギリシャへの財政支援に反対する経済学者らが2013年に設立。EUを国際的な経済機構に改革すべきだと主張し、「改革が行われない場合はドイツのEU離脱を推進する」と訴える。
共同党首制のAfDの「顔」はフラウケ・ペトリ党首(41)だ。歯切れの良い発言と清新なイメージが、既成政党に対抗する新党という印象を強める。「エリート政治」の打破を掲げたトランプ米次期大統領を称賛する。
旧東独地区で盛んな反イスラム運動(通称・ペギーダ)への対応を巡る党内対立があったAfD。「AfDと明白な共通点がある」としてペギーダ擁護に回ったペトリ氏が党内の勢力争いに勝利したことで、保守化傾向が強まった。
昨年、ドイツに難民が大量流入した際には、「緊急時には銃を使ってでも(難民の)違法入国を阻止すべきだ」と主張。難民の入国制限を否定するメルケル首相に不満を抱いた有権者らのAfDへの支持が加速した。統一以降の東西格差や人口減に苦しむ地方で人々の不満がくすぶるドイツ。欧米のリベラル勢力の「最後の要」とされるメルケル氏による安定政権が継続するのか見通せない。
◆来年3月総選挙
オランダでは来年3月15日に総選挙が予定されている。欧州の難民危機を受けて、イスラム教徒排斥など過激な発言で知られるヘルト・ウィルダース党首(53)が率いる極右の自由党が大きく支持を伸ばしている。
オランダは1960年代から、労働力としてモロッコなどからイスラム系移民を受け入れてきた。ピュー・リサーチ・センターの推計によると、人口に占めるイスラム教徒の割合は6%。西欧ではフランスに次いで高い。
一方で2000年代以降、「反イスラム」を掲げる極右勢力が台頭。ウィルダース氏は06年に自由党を結成した。過去にはイスラム教の聖典コーランをヒトラーの著書「我が闘争」になぞらえるなど、欧州では反イスラム急先鋒(せんぽう)の政治家と位置付けられている。「オランダの脱イスラム化」を掲げ、モスク(礼拝所)の閉鎖やコーラン禁止を主張する。
自由党は現在、下院で第5党。だが、昨年以降、欧州の主要都市を襲ったテロや難民危機を受けて支持を広げており、最新の世論調査の政党別支持率では1、2位を争う。
ウィルダース氏はEUにも懐疑的な立場で、オランダのEU離脱の是非を問う国民投票の実施を求めている。オランダでは今年4月、EU・ウクライナ間の連合協定の是非を巡る国民投票があり、「反対」が20%以上も「賛成」を上回った。自由党は反対派をけん引した。
◆来年4~5月大統領選
フランスでは来年4月23日に大統領選がある。上位2候補による決選投票が5月にあり、極右政党の国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)が駒を進めるとみられている。
FNは、旧仏植民地のアルジェリアの独立に反対した人や反共産主義者らが中心となり、ルペン氏の父ジャンマリ氏(88)が1972年に設立。弁護士として法務担当だったルペン氏が2011年、2代目党首に就任した。
国民に受け入れられやすい「普通の政党」を目指すというルペン氏の語り口はソフトだが、主張の内容は過激だ。仏国内の高失業率や経済低迷は移民の流入や自由貿易が原因とし、移民制限に加え、EU離脱を問う国民投票の実施を政策として掲げる。本来は左派社会党の支持基盤ながら、自由貿易が国内産業を圧迫していると訴える労働者層も取り込んできた。
昨年11月のパリ同時多発テロでは、難民に偽装した実行犯が含まれていた。テロ後にパリ政治学院政治研究所が行った調査では、政府のテロ対策への不満を背景に、警察官や軍人を中心とする公務員の間でも、難民・移民排斥を掲げるFNへの支持が広がっていることが明らかになった。ルペン氏は、米大統領選でトランプ氏勝利が確実となった9日、「行き過ぎたグローバル化に反対の姿勢を示すトランプ氏の勝利は、フランスにとって吉報だ」と歓迎した。
◆来月大統領選
オーストリアで12月4日、大統領選の2回目の決選投票が行われる。自由党のノルベルト・ホーファー国民議会議員(45)が勝てば、EU初となる極右政党出身の「国家元首」となる。
第二次大戦中、ナチス・ドイツに併合されたオーストリアでは、一部の国民がナチスに加入。自由党は戦後に選挙権を回復した元ナチス党員らが中心となり、1956年に創設した。現在はナチスを否定する一方で、「オーストリア第一主義」を主張。イスラム教徒の移民排斥を強く訴え、「イスラム教徒が国民から職を奪い、強盗や性犯罪を繰り返している」と住民の不安をあおる戦略を取る。
昨年以降、中東などから大勢の難民・移民が流入してきたことを受け、人気が上昇。世論調査の支持率では、長く政権を担当してきた中道左派・社会民主党、中道右派・国民党の2大政党を抜き、自由党がトップだ。
今年5月の1回目の決選投票では、2大政党が支援した左派・緑の党出身のファン・デア・ベレン元党首(72)が小差でホーファー氏に勝利。だが、自由党の指摘で不在者投票の不正が発覚し、投票をやり直すことになった。
オーストリアでは国政の実権は首相にあるが、大統領にも議会解散の権限がある。自由党は大統領選の勝利で弾みをつけ、シュトラッヘ党首の首相就任への足がかりにする戦略を描いている。
欧州各国では右派に加え、左派のポピュリスト政党も支持を拡大している。主に右派は反移民、左派はEUが求める緊縮財政に反対の立場だが、既存政党やEUを批判し、市民の不満の受け皿になっている点は共通している。
ポピュリスト政党は保革の対立構図が薄まるきっかけとなった冷戦終結(1989年)後、勢力を伸ばした。米ハーバード大ケネディ行政大学院のピッパ・ノリス教授らの調査では、欧州24カ国の各国会とEU欧州議会での右派、左派のポピュリスト政党の得票率はそれぞれ、1960年代の6.7%、2.4%から2010年代には13.4%、12.7%へと急増した。
ノリス教授らはポピュリスト政党台頭の背景として▽グローバル化に伴う経済格差の拡大▽移民流入▽テロの脅威--などを挙げ、「社会の基本的な価値観や慣習を脅かす可能性のある文化的変化への反発がある」とみる。
◆慶応大教授・庄司克宏氏(欧州連合研究)の話
トランプ氏の米大統領選の勝利は欧州にとって、ブレグジット(英国のEU離脱)以上の衝撃だ。「反移民」を掲げた人物が米国の大統領の座に就くことは、欧州の有権者に心理的な影響を与えるかもしれない。年末から来年に重要な選挙が集中する欧州で、ポピュリズム的な政党が支持を広げる可能性がある。
注目されるのは、トランプ氏勝利後、欧州で初めての主要選挙となるオーストリア大統領選の決選投票(12月4日)だ。大統領は儀礼的な職だが、議会の解散権を持つ。世論調査で支持率トップの自由党のホーファー氏が勝てば▽議会を解散▽選挙で議会の多数派を占める▽シュトラッヘ党首が首相に就く--というシナリオが現実味を帯びる。
来春のオランダ総選挙では、トランプ氏と親しいとされるウィルダース氏が党首を務める自由党が勝つ可能性が高い。一方、フランス大統領選で国民戦線のルペン党首が勝利するのは難しいだろう。「ドイツのための選択肢」が来秋の連邦議会(下院)選で政権を取ることはあり得ないと思うが、現連立与党が議席を減らし、政局でキャスチングボートを握る可能性がある。
昨年の難民危機を受け、EU各国は国境を閉ざした。域内を出入国審査なしに移動できる制度はEUの財産とも言えたが、それが骨抜きになった。「難民申請者が増え、治安が悪化する」と訴えた極右政党が支持を広げていった。
EUの首脳会議では全会一致で合意形成を図るため、EUに懐疑的な極右の首脳が加われば、合意は極めて難しくなる。ただでさえEUは政策決定が遅いと批判されているのに、政策決定がまひする可能性が出てくる。
来年はEUの前身である欧州経済共同体(EEC)発足を定めたローマ条約調印から60年の節目だ。発足当初からの加盟国である仏独蘭で、極右政党が勢力を強めるのはEUにとって痛手だ。来年がEUの大きな転換点になるかもしれない。
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