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<クローズアップ2016>ノーベル賞、来月授賞式 基礎研究に危機

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 今年も日本人のノーベル賞受賞が決まった喜びの一方で、「20年、30年後には日本から出なくなる」と心配する声も上がる。受賞対象となった「オートファジー」(自食作用)のような、基礎科学を支える国の予算が年々縮小し、研究環境が悪化しているためだ。製品開発など応用研究も、将来の利用法が必ずしも明確ではない基礎研究があってこそ。今年の授賞式は12月10日にある。【渡辺諒、阿部周一】

大隅良典・東京工業大栄誉教授

国の予算減、環境悪化

 「生産性だけが評価されるようでは基礎的な科学は育たない」。オートファジー研究で今年のノーベル医学生理学賞に選ばれた大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)は、神奈川県で26日にあった会合で、危機的状況をこう表した。

 2015年物理学賞を受けた梶田隆章・東京大宇宙線研究所長の「ニュートリノ振動」、08年物理学賞の故・南部陽一郎氏らの素粒子研究も基礎科学だ。日本人がノーベル賞を受賞するたび、その研究環境を危ぶむ声が大きくなるが、状況は悪化している。

 その元凶とされるのが、文部科学省が各国立大に支出する「運営費交付金」の減額だ。この交付金は大学の安定した収入源で、企業の資金提供を得づらい基礎研究には、重要な財政基盤となってきた。

 だが、04年度の大学法人化後の12年間で1470億円(12%)も減り、16年度で1兆945億円になった。窮状を訴える国立大理学部長会議が今年10月に開いた記者会見によると、北海道大や広島大など7大学では運営費交付金をベースにした「個人研究費」が1人100万円超の時代もあったが、現在は10万~50万円という。東京大の福田裕穂(ひろお)・理学系研究科長は「私の場合、飼育動物の電気代の出費が大きい。さらに電話代など事務経費を引けばほとんど残らない。(別手段で)どうにか研究資金を得ている」と訴えた。

 減額の影響は人事にも表れ、文科省によると、人件費抑制のため国立大が新規採用を減らし、若手研究者(40歳未満)は07年以降で810人(4%)減少した。一方、一定期間で成果が求められ、基礎研究がやりにくい「任期付き」若手研究者は、07年度の39%から16年度の63%に急増した。

 研究者個人の財源として文科省の「科学研究費補助金(科研費)」もある。公募と審査で交付され、運営費交付金の厳しさを象徴するように、今年度は主要項目で過去最多の10万人を超す新規応募が殺到。過去5年間は総額が約2300億円と頭打ちの中、採択率は26・4%と5年連続で下落し、7割以上は獲得できなかった。

 それでも、今月あった財務省の関係審議会では「科学技術予算は、政府総支出に占める割合もGDP(国内総生産)比も主要国と比べて遜色ない」と厳しい見解が示された。

 文科省は運営費交付金を増やそうとしており、省内には「企業など外部資金に頼る例が増えているが、多くは短期的な支援。基礎研究に必要な長期的な取り組みができなくなる」という声がある。国立大の運営に詳しい東京大の山本清教授(大学経営学)は「予算削減は、教員や事務職員が減り、教員一人の負担が増えることからも研究への悪影響は明らか。学術誌の購読まで削る大学もあり、研究環境は悪化の一途だ」と指摘する。

ネットで自ら資金集め

 研究費の獲得を、公的助成以外に見いだす動きが広がっている。その一つはインターネットを利用した「クラウドファンディング」だ。取り組みたい内容を示して不特定多数の賛同者から出資を受け、研究を実現する仕組みだ。

 「自分以外、10年間は誰もやらない基礎中の基礎の研究。すぐ役立つことはないのに、励ます人がいて勇気づけられた。一般の人が興味を持つよう研究のわくわく感を出すことも大切」。約57万円集めた神田真司・東京大准教授(神経内分泌学)は話す。この資金を使い、古い時代から生き残る魚で「全ゲノム重複」という染色体の数が倍になる変化が魚類をどう進化させたか探る実験を始める。

 神田さんが利用したのは、学術系のクラウドファンディングサイト「アカデミスト」。運営会社によると、2014年の開設後、約30件の研究企画が実現し、出資金は総額約3000万円。出資額平均は1人約1万円という。柴藤亮介社長は「使い道がきちんと見えると応援したいと考える人は多くなる。既存の研究費の補完方法になれば」と期待する。

 インターネットを通じた同様の手法で、徳島大は10月、資金集めを担う組織を作った。研究テーマごとに目標金額や募集期間を定め、協力者には記念品などを贈ることを考えている。

 一方、東京工業大に12年に発足した地球生命研究所(ELSI)は、外国人研究者を中心とした資金獲得チームを結成。2年半の交渉の末、昨年7月に米国のジョン・テンプルトン財団から、2年9カ月の研究費として550万ドル(約6億7000万円)を受け取る契約締結に成功した。

 担当者は「日本の大学が米国の財団から巨額資金を得るのは容易ではなかった」と明かす。

 財団は「地球と生命の起源」を探る基礎研究を評価したという。

 ELSIは海外の他の財団などにも支援を求める活動を広げている。広瀬敬所長は「今後は東工大全体で広く寄付を得られるよう、米国に事務所を設けるなどの体制作りを目指したい」と意気込む。

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