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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 丸山正樹 『漂う子』

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小説の形でしか書けないことを何とかして掬い上げたい

◆『漂う子』丸山正樹・著(河出書房新社/税抜き1600円)

 フリーカメラマンの男が、小学校教師である恋人の教え子を捜す社会派ミステリー。

 「でも謎解きとかはないので、ミステリーファンの期待には応えられないかも」と苦笑する。居場所がわからず、生死すら確認できない「居所不明児童」が、2011年時点で約1500人いたということ自体、ミステリアスだ。多くは親の経済的理由や虐待により、社会から閉ざされ、闇の中を漂っている。

 4年前、石川結貴著『ルポ 子どもの無縁社会』で居所不明児童の問題を知り、以前から書きたかった「親と子」のテーマをリンクさせようと考えたという。

「『漂う子』とは消えてしまった子供たちのことですが、大人になっても親や家族にどう対処していいかわからず悩んでいる子供たちのことでもあります。親にならない限り子供のままでいる大人の意味もあるんです」

 主人公の直(なお)は恋人・祥子との結婚を考えていたが、妊娠を告げられて戸惑う。もともと親との関係がぎこちなく、「親子」の関係性に懐疑的だったからだ。そんな直に子育て中の友人が、「いい子どもになれなかったからって、いい親になれないわけじゃない」と言う。親に反抗し、トンがっていた男だ。

「自分は親になれるだろうかと思い悩んでいる人たちにも、親子関係にとらわれるな、血や遺伝など必要以上に意識しなくていいというメッセージを伝えたかった」

 居所不明児童は、親と一緒にいることで行政が立ち入れない壁を作ってしまう。最悪の結末もありうる実態をルポルタージュで見せられると、憤りややり切れなさで暗鬱となるが、本作は全く異質の読後感を与える。

「小説でしか書けないものは絶対ある。そこをなんとかして掬(すく)い上げたいというのが一番の思いであり、苦しさであり、やりがいでもありました」

 学生時代からシナリオを書いてきたが、仕事が激減したのが小説を書き始めたきっかけ。デビューまで8年を要した。

「小説は私にとっては高い山だったし、没になればお金にもならないんですけど、可能性としては宝クジを買うよりはいいだろうと思いながら(笑)、必死にしがみついて書いてきました」

 前作『デフ・ヴォイス』ではろう者の世界を描いた。レズビアンに育てられた子や発達障害の青年を主人公にした未発表作もある。弱者を題材にするのは、妻が頸椎(けいつい)損傷の重い障害を負ったことと無縁ではないと語る。

「私自身、55歳の今まで定職に就かず、子供もいないという点で、多くの人とは違うマイノリティーだという意識もあります」

 本書の中で、被虐待児だった若者が「血はもうとっくに入れ替わった。今の俺は、細胞から全部俺のもんだ」と放つ言葉には、「虐待は繰り返す」という通説を蹴散らす力がある。NPOや非合法の世界に生きる人々が、かろうじて救済の道を作っている様子も描かれる。虐待されても親を庇(かば)う子の姿もリアルだ。

「親の立場で読んだらどう思われるか不安でしたが、初老の読者から『漂う子とは、漂う親の映し鏡なのかもしれない』と感想をいただいた。うれしかったですね」

(構成・山内喜美子)

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丸山正樹(まるやま・まさき)

 1961年、東京都生まれ。早稲田大卒。シナリオライターとして映画やドラマ、舞台、官公庁の広報ビデオなどの脚本を手がけ、2011年、『デフ・ヴォイス』(松本清張賞最終候補作)で小説家デビュー。本書が2作目の長編小説

<サンデー毎日 2016年12月11日増大号より>

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