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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 来年の十二支の「酉(とり)」という漢字を白川(しらかわ)静(しずか)の「字統」で引くと「酒樽(さかだる)の形」で、青銅器などの銘文(めいぶん)では酒の意味に用いられたとある。よい酒になるほどに穀物が十分に熟したことを示す字で、どうしてそれに鶏(にわとり)があてられたかは分からない▲昔の中国の人は十二支とは別に、毎年の正月1日を鶏の日とし、戸口に鶏の絵を張って魔よけとしたそうだ。俳句などで元旦を鶏旦(けいたん)と表すことがあるのはその名残(なごり)という。人々は鳴き声で闇を払い、新しい年の朝をもたらしてくれる鶏の力にあやかろうとしたらしい▲日本の天(あま)の岩戸(いわと)神話もそうだが、鶏がこの世に光をもたらし、夜を支配する魔物を追い払う説話は世界各地にある(山口健児(やまぐちたける)著「鶏」)。だが新たな年をもたらしてくれるその主役を襲う魔物もいるのだという。日本列島を覆う鳥インフルエンザの脅威のことである▲新潟県や青森県では鶏とアヒルの大量殺処分(さつしょぶん)をもたらした鳥インフルエンザである。その後も全国各地で死んだ野鳥から高病原性のウイルスの検出が相次ぎ、養鶏業者の緊張が続いている。そればかりか動物園など鳥の展示施設の多くも休園に追い込まれてしまった▲これから正月にかけて来年の酉年にちなむえと引き継ぎなどのイベントが計画されていた時期である。登場するはずの鳥を着ぐるみや他の動物に替えるという話も聞くが、やむなく中止するところが多かろう。ウイルス封じを優先せねばならない年の変わり目である▲養鶏家や鳥飼育施設にはそれこそ防疫(ぼうえき)に神経をすり減らす年末年始となろう。ここは鳥を脅かす魔を追い払う人の努力でもたらしたい酉年の鶏旦である。

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