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旅するように生きてみたら~人生折り返し地点の選択~

第16回 「私たちには“恵み”がある~ちいさな集落の、ちいさなお祭り」(1)

 鹿児島県と宮崎県の県境にある、湧水町のちいさな集落に「みんなげー(みんなの家)」をつくり、友人たちと集うようになってはや10カ月。平均年齢70 歳をとうに超えている地元の人たちとの距離は、そろりそろりとではあるが近づきつつあった。

     そんななか、みんなげーの仲間、めいさんが

    「稲刈りが終わったら、ここで楽しいイベントをしましょうよ」

     と提案したことから、私たちと集落の人たちとの間に不思議な一体感が芽生え始めた。

     イベントをしようとしたのは、みんなげーに集う私たちがこの集落で感動したこと、たとえば、山村のうつくしい原風景だとか、味付けなんて必要ないほど、それだけでおいしい新米やもぎたての野菜だとか、完ぺきな漬物や煮しめをつくるおばちゃんたち(乙女倶楽部)の存在だとか……そんな私たちの足元にあって、意外に目を向けていない、ゆたかな“恵み”を、もっとたくさんの人たちと共有したいと思ったからだ。

    イベント前日、準備を終えて、乙女倶楽部のみなさんとおにぎりの昼ご飯。世代は少しずつちがうけれど、女はいつも“共感”と“笑い”でつながる。

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     イベントの名前は、「たのかんさぁアートフェスティバル」と決めた。

    「12月だからクリスマスかなぁ。人に来てもらうために大きなツリーでもつくる?」

     なんて最初は言っていたが、それではまるで、せっかくの情緒のある風景を壊して、わざわざ異国のテーマパークをつくるようなものだ。それに、ツリーやイルミネーションなんて、どこでもやっていることじゃないか。私たちは、「いま、ここにあるもの」を使って、じゅうぶん楽しめるはずだ。

    「じゃあ、たのかんさあ(田の神様)がいいんじゃない? 稲刈りあとの田んぼに、みんなでつくった、たのかんさあを並べたらすてきかも……」

     と軽く言ったら、すんなり決定。たのかんさあとは、長年、農民たちの間で、田を守り、稲の豊作をもたらすと信じられてきた神様だ。鹿児島と宮崎県南部に残る薩摩藩独特の文化でもある。この集落の公民館にも、石を削ってつくられた、たのかんさあが大切に祭られている。そんな農民たちの気持ちに思いをはせる機会にもなるんじゃないかと思った。結局、「たのかんさあを作ろう!」という試みは、ちいさなストーンアートでのたのかんさあ作りになったのだけれど。

    隼人瓜の福神漬けは100個ほどパック詰めした。1パック60グラムで100円。

     私たちは、このイベントのことを、3カ月ほど前にみんなげーで飲み会を開いて発表(詳しくは連載12回で)。ほかにも何度か、集落の人たちに、イベントの趣旨や企画内容について話す場をもった。

     当初、集落の人たちは、「ほんとうにそんなことができるの? ほんとうに人が来てくれるの?」という、きょとんとした反応だった。だって、外から人がやってくるイベントなんて、これまでやったことがない。指揮をするプロデューサーも、応援してくれるスポンサーも、おまけに予算もなくて、最初から最後まで自分たちだけでつくるイベントなのだから、「ほんとうにできるの?」は当然の反応だろう。しかも、どれだけ私たちが「ここには、すばらしいものがあるんだから!」といっても、ここでずっと暮らしている人たちにとっては、それはあたりまえのように存在しているものだ。「ほんとうに人が来てくれるの?」も、当然の反応だろう。

    となりのレストランのシェフが作ってくれたコーヒーバル。コーヒー1杯100円、ワインは300円。

     しかし、イベントの中心人物、めいさんの気持ちが本気であることがわかると、だんだん「なんとかせんとね(なんとかしなきゃ)」とばかりに、積極的にいろいろなことを提案してくれるようになった。

     タツコさんは、甘酒づくり。女性陣の“乙女倶楽部”のみなさんは、隼人瓜(うり)の福神漬けの販売。そして、ランチには新米のおにぎりと、野菜いっぱいの豚汁を出そうということになった。私たちとの連携をしてくれたのは、いつもエイコおばちゃんだった。

     男性陣である“男組”のなかには、石焼き芋づくりの名人がいる。竹灯籠(どうろう)をつくれる人もいる。車30台ほどが入る広い空き地を駐車場にしてはどうかと地主と交渉してくれる人、快く提供してくれる人がいて、男組は草払いの大仕事をしてくれた。町役場の観光課にイベントのことを話してくれたのも、たのかんさあの資料を集めてくれたのも、イベント当日に最寄りの駅からシャトル便を出してくれたのも男組だった。みんなげーをつくってくれた、となりのレストランのシェフ、イサオさんは田んぼの傍らでコーヒーを提供するバルをつくってくれたり、会場の案内地図を黒板に描いてくれたりした。男性は頼もしい……こころからそう思う。

     感動したのは、これらのことを私たちがお願いするのではなく、集落の人たちがすべて自発的に考えて、自発的に動いてくれたことだ。いつもは決して動かないような高い年齢層の一人ひとりが「なんとかせんとね」と“当事者”となって動いていた。

     めいさんの本気モードはさらに高まり、外部からも自然にサポートしてくれる人が集まってきた。「たのかんさあアートフェスティバル」の“アート”の部分を担当してくれたのは、鹿児島の地域おこしやゆるキャラづくりに関わってきたプロフェッショナル外山さん。たのかんさあの歴史やデザインについてレクチャーしてくれることになったのは、「たのかんさあ研究家」橋口さん、歌の披露は、私たちの友人であるシャンソン歌手カズコさん。クリスタルボウルのうつくしい音色でヨガを教えてくれる二人組フクヤマさんとアリムラさん、たのかんさあソングを作って三味線で弾き語りをしてくれるリカさん、地元の湧水茶を振る舞ってくれるという茶園のサオリさん、チラシを作ってくれたデザイナーリンさん、それを配ってくれたレストランのコーコさん、会計を担当してくれた神田亭の神田くん(神田亭については連載8回で)、会場の設営をしてくれたインテリアコーディネーターのナオコさん……。たくさんの人びとが、それぞれ自分のできることを持ち寄ってくれた。

    男組の主力メンバーも加わって前夜祭。飲んでいるだけでなく、翌日の連絡事項の確認、心配事の解決などもする。初めての挑戦に、みんな真剣。

     イベント前日、めいさんと私、乙女倶楽部で豚汁、福神漬けの準備をした。

     乙女倶楽部は、慣れた手つきで、近隣で収穫した大根、ニンジンなどを刻んでいく。

    「歯ごたえが残るように、細かすぎず、大きすぎず。これくらいの大きさでね」

    「塩むすびの塩とゴマは、煎って香ばしくするの」

     などと、いろいろな知恵を授けてくれる。乙女倶楽部の一人は、

    「みんなで料理する機会ができて、ほんとに、よかった。昔はよく集まって料理してたんだけど、最近はすっかり、そんな機会がなくなったからねぇ」

     と言っていた。一緒に作業をするうちに、自然に打ち解けて、会話も弾んでくる。笑い声が起きる。先輩方から、料理の仕方だけでなく、生活や人間関係など、いろいろなことをおしえてもらう。そんな機会は、とても貴重だ。

     料理の準備が終わるころ、私たちは自分たち用にご飯を炊いておにぎりをつくり、その日の昼ご飯にした。地元でとれる濃いお茶をいれ、おかずは、料理名人であるクニさんがつくった高菜の漬物と、ゴボウのみそ漬け……それだけあればじゅうぶん。

    「みんなで食べるとおいしい……」

     私は、しみじみと思い、しみじみと味わう。そして、こんなことを考えていた。

     おじちゃん、おばちゃんのこんなに生き生きとした楽しそうな笑顔を見たのは初めてだ。だから、ここで終わっても、どんな結果になってもいいんじゃないかと。

     イベントというのは、お客さんとして来るよりも、当事者としてつくっていくほうがワクワクして盛り上がる。そんな気持ちをみんなで共有できたのは、ほんとうに幸せ。ほんと、ここで終わってもいい。

     夕方、めいさんは、駅前で一人ひとりに、「たのかんさあアートフェスティバル」について丁寧に説明しながらチラシを配り、夜は、男組も交えてスナック「芙蓉」で、ママの作った絶品の煮しめをつつきながら、前夜祭をする。

    「みんな、よくがんばったねぇ」

     お互いをたたえ合い、お互いに感謝を伝え合う。楽しい。幸せだ。もう大満足。ほんと、ここで終わってもいい。いやいっそ、明日が来なくてもいい……。

    イベント当日の朝は、見事な雲海が表れた。たのかんさあが味方している!?

    イベント当日の朝、集落は見事な雲海に包まれていた。

     ここまでは、やるべきことはやった。でも……

    「ほんとうに、人が来てくれるんだろうか!?」

    最後まで一抹の不安を抱えていたのは、たぶん、めいさんと私だ。

     そして、午前10時。乙女倶楽部、男組、そして、あちこちから集まったサポーターが輪になって、「えい、えい、おー」の掛け声で、ちいさな集落のちいさな祭り「たのかんさあアートフェスィテバル」は始まった。

    (続きは、2週間後「私たちには〝恵み〟がある~ちいさな集落の、ちいさなお祭り」<2>で)

    有川真由美

    有川真由美(ありかわ・まゆみ)作家、写真家。鹿児島県姶良市出身。熊本県立熊本女子大学生活科学部生活環境学科卒業、台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程修了。 化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性へのアドバイスをまとめた書籍を刊行。46カ国を旅し、旅エッセイも手掛ける。著書はベストセラー「感情の整理ができる女(ひと)は、うまくいく」「30歳から伸びる女(ひと)、30歳で止まる女(ひと)」「仕事ができて、なぜかうまくいく人の習慣」(PHP研究所)他、「感情に振りまわされない―働く女(ひと)のお金のルール」「人にも時代にも振りまわされない―働く女(ひと)のルール」(きずな出版)、「好かれる女性リーダーになるための五十条」(集英社)、「遠回りがいちばん遠くまで行ける」(幻冬舎)など多数。韓国、中国、台湾でも翻訳される。内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室「暮しの質」向上検討会委員(2014-2015)。日本ペンクラブ会員。

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