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文化庁映画賞の受賞 一観客の苦言への「功労」=森卓也 /愛知

 「--それから、お金は一切出ませんので」「あ、そうですか、わかりました」

     平成28年度文化庁映画賞の贈呈式(10月25日)の前、映画功労部門受賞者9人の一人である私に、文化庁からかかってきた最初の電話のやりとりである。

     いきなりストレートな話みたいだが、「お金」というのは交通・宿泊などの費用のこと。西尾張の農村地帯に生まれ育って今に至った私の場合、出席となれば上京しなければならない。その話をすると、編集者などの知人は異口同音に「実費弁償くらいはしてくれなくちゃ……」。

     まあ、それが普通の反応だろう。私も、他人のことだったら、そんな応答をしたかもしれない--が、むかし田舎の市役所の教育委員会事務局で、社会教育、文化協会などという仕事を受け持たされた身としては、少し違う見方もしてしまう。

     受賞者の中には、私より遠方の方もあるかもしれない。それぞれに実費弁償をとなると、事務処理が結構面倒なことになる。六本木かいわいに住んでいない限り、会場のグランドハイアット東京までの交通費はかかる道理で、何らかの不公平は避けがたい。

     文化庁がシブチンなわけではない。たとえば文化記録映画部門は、大賞200万円、優秀賞2作がそれぞれ100万円。文化記録映画は商業ベースに乗りにくいもので、だから奨励の意味もあるのだろう。

     新聞社主催の映画コンクールの選考にしばらく関わったことがあるが、賞状とトロフィーだけで、賞金はなかったと記憶する。

     欠席の自由(!?)もあるわけだが、当日は全員出席。略歴を見ると、執筆活動は2人で、照明、録音、編集、特撮などの技術のベテランの方が多い。私の表彰状には「アニメーション映画評論の分野で……」とあった。アニメに関しては、私はどんどん時代遅れなのだが、スピーチのとき「高校生の頃から、カバンを斜めにかけたまま映画館の映写室に出入りしていた。支配人と映写技師が不仲なのも珍しくなく、制作・配給側と興行側のギャップも目立ち、せっかく当時の技術を結集して作られた映画が、劇場によって別物のごとく差がある原因も知った。そんな実情に、観客の立場から苦言を書き続けたことが83歳の今、ほんのちょっぴり『功労』と言えるのかもしれません」と結び、少し笑いも取れた。

     午後8時半からの式なので、新幹線の最終列車には間に合わない。ホテルをとって翌日帰宅。表彰状は、卒業式に渡されるような筒に入ったままである。額に収めるべきなのだろうなあ。


     ■人物略歴

    もり・たくや

     コラムニスト。映画、芸能、アニメ評論を手掛ける。「森卓也のコラム・クロニクル1979-2009」など著書多数。

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