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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『月と太陽の盤』『村上春樹と私』ほか

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今週の新刊

◆『月と太陽の盤』宮内悠介・著(光文社/税抜き1600円)

 宮内悠介と言えば、作品集『盤上の夜』で日本SF大賞に輝き、直木賞候補にもなった俊英。表題作は、四肢を失った囲碁の天才少女と、彼女の手足となる伯楽を描く異色作だった。

 『月と太陽の盤』の6編も「盤上」の世界だが、主人公の吉井利仙は「碁盤師」。最適の木を選び、碁盤を仕上げる職人だ。その弟子、少年・愼とともに全国を巡る。そして2人の目の前に数々の難事件が起きる。

 「青葉の盤」は、本因坊に失敗作となじられた碁盤師が、仕事を失い榧(かや)の木の下で不審死を遂げた。魔力を孕(はら)む究極の盤作りに、最高の榧を求める利仙が、その死の謎に挑む。あるいは表題作では、対局前に墜落死した八段と、すりかえられた皇室所有の盤の間で深まる疑惑を解いていく。

 いずれの作も、碁盤という宇宙の内で交差する人間の情念が、謎を生み出す。次の一手がいかに繰り出されるか。知的な趣向は読者への挑戦でもある。

◆『村上春樹と私』ジェイ・ルービン/著(東洋経済新報社/税抜き1500円)

 来年2月に、久々の新作長編が発表される村上春樹。ジェイ・ルービンは、『1Q84』『ノルウェイの森』など、その主要作品を翻訳し、そのおかげで世界文学として評価されるように。

 『村上春樹と私』は、そんな著者が、村上作品との出会い、翻訳から見える特色や美質などを語る。漱石、芥川の研究、翻訳をしていたルービンが、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んで、「大胆で奔放な想像力に富む日本人作家」の登場に驚き、夢中になる。

 最初は電話、のちに渡米した村上と交遊が始まり、翻訳作業を通じて、村上作品への理解が深まっていく。翻訳の疑問点を一日かかって本人に突き詰め、困らせた結果「どうせ小説というのはいい加減なものだ」と溜(た)め息を漏らしたというエピソードが面白い。

 外国文化圏からの照射で、ハルキ作品の本質が露(あら)わになることもしばしば。日本文学がよくわかる翻訳者と出会えた村上は幸せだ。

◆『木佐木日記』木佐木勝・著(中央公論新社/上下各税抜き2800円)

 明治末から大正期に文芸欄を充実させ、『中央公論』を大雑誌に変えた名編集者が滝田樗陰(ちょいん)。その下で働く木佐木勝がつづった日記『木佐木日記』は、芥川龍之介、田山花袋、葛西善蔵、久保田万太郎ほか大正文人の素顔を映す一級の資料とされた。長らく入手困難であったが、中央公論新社創業130周年記念として、上下巻で復刊された。驚くべきは復刊に当たり初公開収録された「日記原本」。これまでの刊行分は表の顔で、原本には手ひどい個人の悪口と恨みつらみが満ちている。裏の顔に注目。

◆『僕らが愛した手塚治虫1』二階堂黎人・著(小学館文庫/税抜き1000円)

 名探偵蘭子シリーズで知られるミステリー作家・二階堂黎人(れいと)。大の手塚ファンで知られ、大学在学中にファンクラブ会長を務めたほど。その少年期における愛と情熱を存分に語るのが『僕らが愛した手塚治虫1』。生涯の漫画原稿が約20万枚と言われる漫画の神様の業績を、集めに集めた資料を開陳しながら伝える。手塚作品の細かい分析や鑑賞はもちろんのこと、少年雑誌がA5判からB5判に移行する際に起きた変化など、文化史、出版史としてもきちんと押さえている点はさすが。

◆『死なないつもり』横尾忠則・著(ポプラ新書/税抜き800円)

 60年代末よりポスター、グラフィックの世界でポップアートの最高スターだった横尾忠則も、今年80歳。『死なないつもり』は、聞き手の質問に答えるかたちで、自らの人生と創作活動、今考えていることを開陳する。「努力の根底には、遊び的なものがないといけない」「自分が何者かというのは、周りの人が決めてくれるんです」「飽きるということは、自分を守るためにも、自由になるためにも必要なことです」と、随所にハッとする名言、卓見が出てくる。気楽に読める人生指南書。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 20176年1月1日号より>

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