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社説

高齢者の医療・介護 一律優遇では持たない

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 高齢者の医療や介護の改革で、比較的所得が高い人の自己負担が軒並み引き上げられる。年金も含めて負担増と給付減は相次いでおり、高齢者から反発の声も聞かれる。

 しかし、年齢だけで一律に優遇するのではなく、負担能力に応じた制度へ変えなければ日本の社会保障は崩壊する恐れがある。

 2015年度の国民医療費は41・5兆円だが、25年度には52・3兆円に増加する。75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の36%から46%へと膨張するのだ。

能力に応じた負担を

 制度改革のうち、医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度では、年収370万円以上の「現役並み所得者」の外来受診の上限を4万4400円から5万7600円へ引き上げる。生活が苦しい高齢者は増えているが、今回の医療改革は比較的余裕のある高齢者に照準を合わせたものだ。

 介護保険については「現役並み所得者」の自己負担が3割へと引き上げられる。以前は介護サービスを利用すると一律1割の自己負担だったが、昨年8月から年金収入が280万円以上の人は2割に引き上げられた。その中でもさらに所得の高い人の負担を今回は3割へと増やす。

 国民医療費は増加の一途をたどっている。高額な新薬や医療機器の開発とともに、受診機会が多く1人当たりにかかる医療費が多い高齢者が増えているためだ。

 75歳以上の人が加入する後期高齢者医療保険は税と保険料で半分ずつ賄っているが、保険料のうち後期高齢者自身が納めるのは約1割で、残りの4割は現役世代からの支援金で支えられている。

 大企業の雇用者が入る健保組合は支援金の負担が重く、多くが赤字財政に陥っている。負担に耐えられずに解散し、支援金の負担が軽い中小企業の協会けんぽへ加入するところもある。

 介護保険でも現役世代である40~64歳が支払う保険料の計算方法を17年度半ばまでに見直し、加入者数ではなく加入者の収入に応じた「総報酬割り」という仕組みにする方向が示されている。ここでも大企業で働く正社員の保険料が引き上げられていくことになる。

 それでも正社員はまだ恵まれている。非正規雇用の社員の7割が年収200万円に届かず、病気になっても「医者にかかれなかった」という人が13%にも上るという労働組合の調査結果がある。子や孫が元気に育ち、活力のある社会を作らなければ、老後の安心は得られない。

 健保などは会社と従業員が保険料を折半で払うが、非正規雇用の人が入る国民健康保険(国保)は企業からの拠出金がない。さらに家族それぞれが加入して定額の保険料を払わなければならないため、子供が複数いる世帯の負担が重くなる。その国保からも高齢者医療に1・7兆円の支援金が払われているのだ。

 医療や介護を支える現役世代を先細りさせたのでは制度が維持できなくなるのは明らかだ。一定程度の負担能力のある高齢者の自己負担を引き上げるのは不合理とは思えない。

 高齢者への優遇措置を是正する必要性は以前から指摘されていたが、高齢者からの反発を恐れて政治が避け続けてきた問題だ。

安定財源の確保が必要

 今回の改革案に対しても与党内で異論が噴き出した。住民税が課税される「一般所得者」の医療費について、外来受診の上限が2倍に引き上げられる予定だったが、来年夏の東京都議選への影響を懸念する公明党の反対で、小幅の引き上げへと修正された。

 負担増のために必要な医療を受けられなくなることを懸念する声は強い。症状が悪化してから病院に行くと、結果的にもっと医療費がかかるというのだ。

 しかし、比較的軽い症状でも病院を訪れ、検査や投薬を過剰に受ける高齢者が多いのも事実だ。薬への反応で認知症の症状を起こすことも問題になっており、過剰投薬の弊害は改善しなければならない。より適切な医療を受ける契機にすべきだ。

 生活保護受給者の医療費は全額無料であり、一部の悪質な医療機関による患者の抱え込みや、過剰な医療行為による医療費の不正請求がこれまで度々問題になってきた。

 医療ケアの必要性が比較的少ない患者が、医療費の高い病棟に入院していることも相変わらず指摘されている。本来であれば介護施設や在宅の介護で支えるべき人が高額な医療機関に滞留している現状を改善しなければならない。

 医療費の膨張を抑えるためには、高齢者の自己負担を上げるだけでなく、医療と介護の連携や役割分担を明確にする必要がある。

 また、長期的な制度の持続を考えると、安定した財源の確保についても真剣に取り組まねばならない。保険料が上がっていくだけでなく、税からの支出も増え続け、国の予算に占める社会保障費の割合も年々高まっている。

 いつでも必要な医療や介護を受けられるためには、負担を避け続けているわけにはいかない。

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