特集

Listening

話題のニュースを取り上げた寄稿やインタビュー記事、社説をもとに、読者のみなさんの意見・考えをお寄せください。

特集一覧

Listening

<記者の目>日露首脳会談 領土問題の行方=大前仁(外信部)

  • コメント
  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷
会談のため首相官邸に到着したプーチン大統領(左)と安倍晋三首相。「蜜月」が言われた両首脳だったが……=16日、川田雅浩撮影 拡大
会談のため首相官邸に到着したプーチン大統領(左)と安倍晋三首相。「蜜月」が言われた両首脳だったが……=16日、川田雅浩撮影

「2島マイナスα」の解決

 今月中旬に開かれた日露首脳会談で、日本はめぼしい成果を得られなかったが、ロシア政府が描く領土問題の解決策が見えてきた気がする。それは、最大限に譲っても北方四島(国後島、択捉島、歯舞群島、色丹島)のうち、歯舞・色丹しか返還しない「2島マイナスα」の決着だ。現時点では一島も譲らないつもりだが、北方領土での共同経済活動などが成功すれば、条件付きで2島返還の交渉に応じるという立場である。

「共同宣言」基に条件闘争へ突入

 日本国内でよく知られているのは「2島プラスα」による解決論だ。1991年のソ連崩壊後、日本はロシアと断続的に領土交渉を続けてきたが、北方四島の返還や帰属確認で同意を得られなかった。一方、日本がロシアの前身であるソ連と結んだ「日ソ共同宣言」(56年)には、「平和条約が締結された後に歯舞群島と色丹島を引き渡す」と記されている。しかもロシアのプーチン大統領自身が「共同宣言に基づいた解決を目指す」と繰り返してきた。そのため日本が「4島」を諦めて「2島」に転じさえすれば、ロシアが即座に同意したうえに、残された国後・択捉について何らかの譲歩(プラスα)に応じるはずだ、というものだ。日本国内では2000年代中ごろから「2島プラスα」の考え方が浸透してきた。

 対照的に「2島マイナスα」はほとんど論じられてこなかった。しかし、今回のプーチン氏来日の前後で、その発言を振り返ると、ロシア側が歯舞・色丹の引き渡しをたたき台にして、厳しい条件闘争に臨む考えがうかがえる。

 例えば、プーチン氏は訪日前の読売新聞などとの会見で「ロシアには領土問題は全くないと思っている」と突き放した。その一方で、歯舞・色丹を巡っては「引き渡しについて書かれているが、どちらの主権で、どんな条件で引き渡されるのかは明記されていない」と言明。歯舞・色丹は共同宣言に記されているから交渉に応じるが、「領土交渉」には当たらない。一方で、国後・択捉については「共同宣言の枠を超えている」と取り合わない姿勢だ。

 ここから浮き彫りになるロシアの解決策は、次のようなものだと思う。日露両国が(1)北方領土での共同経済活動を始める(2)4島の帰属を確認しなくても、平和条約を結ぶ(3)歯舞・色丹の引き渡しに関連する条件を話し合う--という過程だ。この際に想定される交渉条件は、歯舞・色丹が引き渡された場合に、日本が在日米軍を展開しないことを約束するなど、多岐にわたる見通しである。

経済協力成否と平和条約が焦点

 プーチン政権は北方領土での共同経済活動などが進展した場合に限り、引き渡し交渉に応じる構えだ。逆に経済協力がうまくいかず、平和条約も結ばれなければ、現在の「0島返還」のままで構わないのだろう。ロシア側の当局者は「1~2年で解決するような問題ではない。それでも実現不可能だと思わない」と語る。一方で、日本側の当局者はロシアのアプローチについて「『2島マイナスα』による決着論だ」と指摘し、「20年もかかる条件闘争になるかもしれない」と警戒心を隠さない。

 このような厳しい現実に直面しながらも、今回の首脳会談を前にして、日本国内は「少なくとも2島が戻ってくるのでは」と色めき立った。特に9月の日露首脳会談の直後、安倍晋三首相が自らが提唱する「新しいアプローチ」による交渉について「道筋が見えてきた」と語ると、拍車がかかった。なぜ楽観論が幅を利かせたのだろうか?

 それは日本国内でロシアに対する固定観念がこびりついていたからだと思う。日露が最後に本格的な領土交渉をした00年代前半には、両国の経済力の差が歴然としており、日本が「2島」で折れれば、ロシアは受け入れる余地があると思われていた。しかし15年前は12倍だった日露間の国内総生産(GDP)の差が4倍にまで縮まっただけでなく、中国の台頭を受けて、北東アジアにおける日本の立場は弱まっている。それなのに日本国内では自らが「2島」を選びさえすれば、解決すると思い込んだのだ。

 今回の首脳会談を受けて、幻想はもろくも崩れ落ちた。一方で、日本外交の選択肢は多くない。ロシアとの包括的な関係を改善させながら、平和条約の締結と領土問題の解決を目指していくのか。それとも平和条約も領土も求めず、ロシアに対して原則で譲らない立場を貫くのか。日本にとって短期的に現状を打開できる策は乏しく、前者の選択肢を取り続けるしかない。私はそう思っている。

コメント

※ 投稿は利用規約に同意したものとみなします。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集