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岡崎 武志・評『コンビニ人間』『まわり舞台の上で』ほか

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勝手に今年のベスト3:サンデー的2016年総まとめ やっぱりこの本がすごかった!

◆『コンビニ人間』村田沙耶香・著(文藝春秋/税抜き1300円)

◆『まわり舞台の上で 荒木一郎』荒木一郎・著(文遊社/税抜き3200円)

◆『山之口貘詩集』高良勉・編(岩波文庫/税抜き640円)

 ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞報道で、今年の文学界のほかの話題は、すべて吹っ飛んでしまった感はあるが、ちゃんと評価されるべき著作が幾つも生まれた年でもあった。

 まず、小説では何と言っても芥川賞上半期受賞の村田沙耶香による『コンビニ人間』。大卒ながら就職をせず、コンビニでアルバイトをする女性を主人公にした異色作。30代半ばの恵子は、子どもの頃から奇矯なふるまいをし、人間関係が苦手で恋愛経験もなく、ただただ働くことに存在意義を感じている。驚くべきアンチヒロインだ。

 ブラック企業や「電通」の過労死問題など、働きづらさが喧伝(けんでん)される中、労働の本質をユーモアまじりに描いた点、大変新鮮だった。幅広い層に共感を抱かせる芥川賞受賞作で、50万部を突破した。

 エッセー・評論では、日本の歌謡曲のレジェンドたちを評価検証する試みが目についた。松木直也『[アルファの伝説]音楽家 村井邦彦の時代』、三田完『不機嫌な作詞家 阿久悠日記を読む』など、以後日本の歌謡史を語る上で欠かせない証言、資料となるはずだ。

 そんな中、当人の語りで数奇な人生の全貌が露(あら)わになったのが荒木一郎『まわり舞台の上で 荒木一郎』。俳優にして日本のシンガー・ソングライターの草分け、小説も書き、敏腕のプロデューサーでもある男。スキャンダルにまみれ、その存在は忘れられかけていたが、本書により、多才な活動のすべてと闇に隠れた光源が明らかになる。

 著名な女優(荒木道子)の家に生まれ、子どもの頃から創成期のテレビ界に出入りしながら、つねに自分の立ち位置を見極め、自己主張をした。売れっ子になった自分に対しても、いつもどこか冷めていた。聞き手の質問にも、的確な回答をし、発言が冴(さ)えている。たとえば「力を入れてプロデュースされた」に対し、「力なんてどこにも入れてないよ」と答えるあたり、これぞ荒木一郎だ。これほど充実して濃いインタビューは、めったにない。

 文庫では、岩波文庫が好企画を次々打ち出し、強い存在感を示した。つい手が伸びる書目が多かったのである。千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編による『日本近代随筆選』全3冊、カルロ・レーヴィ(竹山博英訳)『キリストはエボリで止まった』などは興奮して取り上げた。

 また、辻征夫、茨木のり子、谷川俊太郎、大岡信など現代詩の選集を出し続けているのも岩波文庫で、今年はとくに高良勉編『山之口貘詩集』に「おおっ!」と思わず声が出た。貘さんは1903年沖縄出身の詩人。生前に遺(のこ)した詩集は4冊。底辺に生き、借金まみれで貧苦にあえいだ生涯だった。しかし、そんな中から「生」の悲哀を、ユーモラスに謳(うた)い、唯一無二の存在となった。「歩き疲れては、/夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである/草に埋もれて寝たのである/ところ構わず寝たのである」と書き出される「生活の柄」は、フォーク歌手の高田渡が曲をつけ歌ったことで、若者にも知られることになった。

 困難な時代にあっても、読書する楽しさとそこから得る知恵を身につけていれば、なんとか生きていける。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年1月8-15日新春合併号より>

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