メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

受験と私

東大卒アイドル 仮面女子・桜雪さん「勉強を思い出に」

努力できた理由を「自分にがっかりしたくなかった」と話す桜雪さん=東京都千代田区で中嶋真希撮影

 地下アイドルユニット「仮面女子」として連日、東京・秋葉原でライブを行い、東京都の小池百合子知事の「希望の塾」塾生としても注目を集める桜雪さんは、東大文学部出身。勉強法をつづった著書「地下アイドルが1年で東大生になれた!合格する技術」も出版しています。“受験生アイドル”として毎日ブログを更新し、自身の受験さえもエンターテインメントに変えてきた桜さんは、「勉強を思い出にしようとしていた」と当時を振り返ります。【聞き手・中嶋真希】

 勉強が嫌いで、決して成績の良い子ではなかったけれど、両親は「お前は頭のいい子だ」といって育ててくれました。スーパーマーケットで買い物かごを色別に並び替えたり、洋楽の曲を聴いて、「これってこういう意味でしょ?」と聞いたりするたび、「雪ちゃん、天才」って。さらに父は、勉強を遊びに変えてくれました。「この問題を何分以内に解かないといけない」といったルールを作って競争のようにしたり、クイズ形式にしたり。そうやって育ったから、「もっといい点を取りたい」と思うようになりました。同時に、「これくらいの点は取れないと」と自分に厳しく課すプライドも芽生えました。

 小学校低学年ぐらいの頃から読書が好きでした。好きな作品は、「ハリー・ポッター」や「ダレン・シャン」などのファンタジー系。空想するのも好きで、思い浮かんだことは実際にやってみたくなる。その中の一つが、舞台への憧れ、踊ることへの憧れでした。小6で友達に声をかけて合唱団を作り、初出場のコンクールで県代表に選ばれました。高校に入ってからは、NHK東京児童合唱団に所属し、練習で忙しい毎日を過ごしながら、バスケ部のマネジャーも務めました。

 東大を意識するようになったのは、高3の春。高2の夏になると、周囲は受験を意識して塾に通い始め、学力の差がつき始めました。入学当初は簡単だと思っていた授業にもついていけなくなりました。落ちこぼれたまま3年生になった時、手に取ったのが東大の入試問題。「なぜそうなるのか」を論述させる内容で、おもしろいと思えた。自分にとって東大は雲の上の存在で、想像もできないような頭のいい人たちが通っているイメージだったけれど、この問題をおもしろいと思えたなら、私も東大に入れば、おもしろいと思えることにたくさん出合えるんじゃないかという期待が膨らみました。手が届くような成績ではなかったけれど、私の空想が広がって、もう絶対に東大に行きたいと思いました。

 東大を目指すことに決めても、なかなか本気で勉強する気にはなれませんでした。そんな時、音楽事務所がタレントを募集しているのを見て、応募してみることに。すると、「受験が終わってから活動を始めるのはもったいない」と言われ、東大を目指す受験生アイドルとして毎日ブログを書くことになりました。

仮面女子専用劇場P.A.R.M.Sでパフォーマンスする桜雪さん(中央)=東京都千代田区で中嶋真希撮影

 ブログに批判的なコメントがついて落ち込むこともありましたが、絶対に見返してやると思っていました。東大を目指すことを公表するのは、いいことばかりではなかったけど、自分の目標は口に出した方がいいと思います。思いもよらないところから手を差し伸べられるかもしれない。現役の東大生が毎日コメントを書き込んでくれたのは、すごく励みになりました。

勉強に盛り込んだ“アイドルファン心理”

 現役では合格できず、浪人することになりました。現役時代に成績が伸びなかったのは、焦りで不安になって、自分の殻に閉じこもったまま勉強していたから。「あんな勉強生活はいや。楽しみながら印象に残るような勉強をしよう」と決めました。中高生活を振り返って、強烈に覚えている勉強内容は、実験だったり、友達とのディベートだったり、自由研究の題材だったり……。主体的に楽しくやったことは思い出として覚えていることに気がつきました。だったら、これからの勉強はすべて「思い出」にしようと思いました。

仮面女子専用劇場P.A.R.M.Sでパフォーマンスする桜雪さん(右から2人目)=東京都千代田区で中嶋真希撮影

 例えば、アイドルファンは、自分の好きなメンバーを「推しメン」として応援します。推しメンを追ううちに、候補生を含めたグループ全体のことが気になるようになります。これを受験にも応用しようと思いました。

 数学だとシグマやベクトルが好きでした。この二つを極めると、数列と図形の問題に自信が出てきます。世界史は、イスラムや古代文明を軸に、視野が広がりました。特定の好きなものを作ると、スイスイ入ってきます。例えばどこかの王国を好きになったら、自分の気持ちの浮き沈みと一緒に歴史が頭に入ってくる。この時代の頃、戦争に負けて残念な気持ちになったとか。感情移入すると、頭に入ってきやすくなります。

 ほかには、科目ごとに勉強した時間を方眼紙に書き込んだり、白地図に自分で情報を書き込んだりしました。全部自己流です。変な先入観なしで、きれいな土台が作りたかったから、今まで覚えたことは全部忘れて教科書の最初のページから始めました。真っ白な地図に、山も川も全部書き込みました。開拓者の気分。これが大正解で、一つのキーワードからその地域に関する情報が、すらすらと出てくるようになりました。

アイドル活動に夢中で飲み会にも行けなかった

 大学に入ってからは、勉強とライブの両立が忙しくて、一度も飲み会に行けませんでした。でも、ステージに立つことが目標だったから、まったく苦じゃなかった。入学前は受験生アイドルとして活動はしていたけれど、グループには所属していなかったので、「ちゃんとステージに立って、私はちゃんとアイドルしてるんだぞ」と言いたいという気持ちがありました。試験前は4日間一睡もできなかったなんてこともあったけど、ステージに立つたびに自分に自信が持てたから、楽しかったです。

フィナーレで盛り上がる仮面女子のステージ=東京都千代田区で中嶋真希撮影

 いつも衣装を入れたスーツケースを持って学内を移動していました。東大は石畳なので、ガラガラとすごくうるさい。「あー、また桜雪が荷物持って移動してる」って言われていました。徐々に存在を認知してもらえたのはうれしかったですが、最初の頃は無名だったので、「自称アイドル」「痛い女」とも言われていました。その評価が変わったのは、1年生の11月。駒場祭で仮面女子のライブをすることができて、学生の見方が変わりました。「ちゃんとライブしてた」「すごい」って。卒業するまでの4年間で、仮面女子を応援してくれる人は本当に増えました。教授が「CD買ったよ」「この前のテレビ見ましたよ」と声をかけてくれたり、研究室のみんなでライブに来てくれたりしました。

 「東大まで入って地下アイドルなんて」とよく批判されますが、東大で育てられた人材が同じような道にばかり進んでいいのかという思いはあります。東大では卒業生を「知のプロフェッショナル」と呼びます。総長は「知のプロフェッショナルは、いろいろなところに行ったほうがいい」と言っていて、じゃあ私は、地下アイドルになって、そこで東大で培った知を生かそうと思っています。同じところに同じ人材がいても、もったいない。

 今後の目標は、まずはニュース番組のレギュラーのお仕事を取ること。顔を覚えてもらって、お茶の間に発信していきたいです。しがらみなく思ったことを言えるし、なんでだろうと思ったことを素直に聞ける立場。私が聞くことで、みんなが知らないことを知ってくれたら。

 小池知事の「希望の塾」にも通っています。政治の最前線に立っている人が、何を伝えたいのかを知りたい、何を都民に、私たちに知ってほしいと思っているのかを知りたかったから。短い時間の講義では伝えられることをちゃんと厳選してくれるので、何が核なのかが分かるのがいいところ。自分にとって質の高い栄養を摂取しているようなものです。

いつもと同じが落ち着く

 受験が近くなると、受験生が験担ぎで私に会いにライブに来てくれるんですよ。私と握手して、「これで合格できる」って。受験生が受験ブログをさかのぼって、この時期に私が何を勉強していたかを参考にしてくれているとも聞きました。うれしいですね。

 1月3日にリリースする新曲「仮面大陸~ペルソニア~」は、夢に向かって突き進むこと、苦しいことがあっても乗り越えることがテーマ。仮面女子は、大変なことを乗り越えてきたメンバーばかりなので、みんなの思いが詰まった曲になっています。年末は、元気がテーマの「元気種☆」を聴いて、年が明けていよいよ受験という時期になったら、新曲を聴いてください。

1月3日発売のニューシングル「仮面大陸~ぺルソニア~」

 試験前は、焦ったらダメ。私は、模試の時から1日目はツインテール、2日目はポニーテールとヘアスタイルを決めていました。それだけで落ち着くんですよね。いつも通りが一番いい。受験前に新しい参考書を買って、開いたら知らないことばっかり、どうしようっていうのが一番ダメ。自分がやってきたことを信じてください。

桜雪(さくら・ゆき) 1992年12月12日、三重県生まれ。東京大学文学部行動文化学科心理学専修課程卒業。アリス十番、スチームガールズ、アーマーガールズの3グループからなる仮面女子のメンバーでアリス十番所属。秋葉原にある専用劇場(http://www.alice-project.biz/parms)で、連日ライブに出演している。劇場では365日ライブを開催し、土日祝日午後3時からは無料の部がある。著書に、「地下アイドルが1年で東大生になれた!合格する技術」(辰巳出版)。1月3日、ニューシングル「仮面大陸~ペルソニア~/ISUMI~四季彩の街で~」を発売。現在、予約受け付け中。

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. アジア大会 バスケ4選手が買春か JOC処分、帰国の途
  2. ORICON NEWS 『銀魂』9月15日発売の『週刊少年ジャンプ』で完結 作者の初連載作品15年の歴史に幕
  3. アジア大会 「買春、浮ついた気持ちで」バスケ4選手謝罪
  4. アジア大会 バスケ不祥事、4選手帰国 認定取り消し処分
  5. 夏の高校野球 大阪桐蔭、済美降し4年ぶり決勝進出

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです