SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ニワトリ』『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』アンドリュー・ロウラー/著(インターシフト/税抜き2400円)

 今年(2017年)の干支(えと)は「酉」。年賀状にはニワトリの絵が飛び交ったことだろう。アンドリュー・ロウラー(熊井ひろ美訳)『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』は、そんな今年の干支についての研究書。

 人類にとって、産む卵を含め食料にもなる万能の鳥。この地球上で200億羽以上生息するという。しかし、野生の時代、人類からは遠い存在だった。セキショクヤケイという種が原形。「内気で秘密主義」の生き物が、どうやって家畜の典型になったのか。

 著者によれば、最初は食料としてではなく、むしろ世界的に見て、祭式に使われる魔術的シンボルであったという。それが闘鶏という遊興で、アジアから世界各地へ広まっていく。その移動のルートについての考察も、壮大なドラマを含んでいるのだ。

 「恐竜の小さな末裔(まつえい)たちが物語る大いなる文明論」と帯文を読めば、明日から焼き鳥や空揚げも最敬礼して食べることになる。

◆『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?--カッパと金の鶏の不思議な関係』金鳥宣伝部・著(ダイヤモンド社/税抜き1500円)

 ニワトリを社のマークとする「金鳥(KINCHO)」は、蚊取り線香の製造販売で「日本の夏」の風情を作ってきた。そんな真面目な会社が、CMになると奇妙奇天烈(きてれつ)で数々の賞を受賞する。

 金鳥宣伝部編『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?』は、130年に及ぶ社の歴史の中で、あのおもしろCMがいかに作られたかを、徹底的に開陳する。思えば、美空ひばりの時代は情緒的で穏当だった。それがやがて「タンスにゴン」あたりから180度転換、変貌する。

 革命者は天才・堀井博次率いる電通関西組。タヌキの近藤正臣、カッパの山瀬まみとやり放題で、その名が全国に轟(とどろ)いた。部下の山崎隆明によると「俺も駄目やけど、お前も駄目やな」が堀井の目線。シュールな笑いを誘うCMがこうして生まれた。

 これで商品の宣伝になるのか? そんな心配をよそに、真面目な会社がはっちゃけCMを許した。そこに未来を感じるのだ。

◆『かぼちゃを塩で煮る』牧野伊三夫・著(幻冬舎/税抜き1300円)

 素朴なデッサン画で、いまや各媒体に引っ張りだこの画家が牧野伊三夫。台所に立つ男性としても有名で、いかに美味(おい)しいものを食べるかを、人生の大事とする。『かぼちゃを塩で煮る』は、お気に入りの料理の作り方から食の思い出、美味しいハイボールまで、全身を傾け叙述する。巻頭の表題作は、北九州での子ども時代、上京し就職、フリーになった貧乏時代と、小さな自伝として読める。土筆(つくし)は今でも自ら摘んで調理。食べることを疎(おろそ)かにしないのだ。挿絵も著者の手による。

◆『オール・マイ・ラヴィング』岩瀬成子・著(小学館文庫/税抜き620円)

 1966年はビートルズ来日の年。著者・岩瀬成子の故郷を思わす、山口県の小さな町で育つ14歳の少女は、ビートルズの大ファン。「ラジオで『シー・ラヴズ・ユー』をはじめて聴いたとき、聴いたとたんになにかが血に染まった」。そのビートルズが日本にやってくる。でも周りに同好の友人はいない。『オール・マイ・ラヴィング』は、平穏な日常と、同級生や周りで暮らす人々とのやりとりを描きつつ、少女のビートルズへの真直(まっす)ぐな気持ちをパッケージした、とても素敵(すてき)な長編小説だ。

◆『SMAPと平成』中川右介・著(朝日新書/税抜き820円)

 昨年のSMAP解散の報と時を同じくして天皇陛下が生前退位の意思を示された。中川右介『SMAPと平成』は、その両者の軌跡から、時代を読みこむ試み。のちの「国民的アイドル」が誕生するのが昭和の終わり。平成に入りCDデビューするも、歌番組が消え、ドラマ、バラエティーに活路を見いだす。バブル経済が終わり、「失われた20年」の中で、「何ができるのか、何をすればいいのかを試していた」アイドルグループが、やがて王者となった。アイドル論を超えた時代の考察がみごと。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年1月22日号より>

あわせて読みたい

注目の特集