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論点

「成人」は何歳から?

 「成人」は20歳からか18歳からか--。法務省は民法の成人年齢を18歳に引き下げる改正法案を今年の通常国会に提出する方針だ。世界の大勢は18歳とする国が多い。しかし、このほどまとまった公募意見では「懸念」の声が多かった。国民投票法が成立し18歳投票も実現したなか、成人年齢の引き下げは、この社会で「大人になる」ことの意味を改めて問うことになりそうだ。【聞き手・森忠彦】

    自立できない若者増える 斎藤環・精神科医

     20代を中心とした大学院生を中心に教えているが、「18歳成人」への関心は「ない」、あるいは「反対」がほとんどだ。すでに20歳を超えた成人なのだが、まだ学生ということもあり、彼らは経済的、政治的に不要な義務を負いたくないというのが本音だ。現在でも大学生の半分以上が20歳以上の成人だが、多くは社会に出る前のモラトリアムを楽しんでいるし、親や大学、つまりは社会全体が現実には大学生を本物の大人とはみなしていない面が強い。彼らの多くは「大人になるメリットが実感できない」と感じている。20歳成人の今でも、これが現実だ。

     そういう現実がある中で、なぜ18歳成人が急いで法制化されなければならないのか。正直言って理解できないし、若者を取り巻く状況が何ら変わらないままで法的な成人年齢だけが引き下げられることには慎重だ。一言でいうと「いま年齢を下げる必要はない」ということに尽きる。

     引き下げを主張する人の多くが「世界の主流は18歳」を理由に挙げる。中には「日本は昔は15歳で元服していた」という人までいるが、ナンセンスの極み。日本が貧しかった時代は少しでも早く働き始めないと国中が食えなかった。貧しい環境ではいや応なく子どもも重要な労働力とされ、おのずと結婚や出産も早くなった。しかし、今やそんな時代ではない。確かに長引く景気の低迷で「貧困世帯」は増えてはいるが、「飢える」ような状態は、今の日本には存在しない。腹は減っても飢えは知らない、最低限の豊かさがある。社会が豊かになるにつれ、結婚や出産年齢は高くなるのは自然の流れで、そうした、昔とは違うライフスタイルを好む若者は増えている。

     私は人間が社会的に自立した存在になる年齢を「成熟年齢」と呼んでいるが、社会が豊かになるにつれ、成熟年齢は高齢化する。今や「若者」の範囲は国が定義する39歳以下どころか、40代以上も含まれてしまっているのではないか。それ以下の人は「ヤングアダルト」と呼ぶべきで、成熟年齢に達した大人とは言えない人も多く、中には「ニート」や「ひきこもり」という状態から抜け出せない若者もいる。こうした人たちの措置が何らなされない状態で、成人年齢だけを一方的に引き下げても、結果としては自立できない若者が増えるだけ、または大人による若者の育成義務の放棄にもなりかねないだろう。

     海外が18歳というのであれば、ドイツや英国などが進めているような自立に向けた就労支援や経済支援といった福祉政策が並行して強化されるべきだ。しかし、現在の国会の状況を見ていると、18歳投票権が済んだから次は18歳成人。その先には18歳の国民投票を生かして憲法改正……という思惑が見え隠れしている。政府は小手先の改革で国民を単純化しようとしているように見えてならない。

     社会全体が若者をいつになっても子ども扱いし、若者もできるだけ大人になりたくないという気持ちが強くある中で法的に18歳に下げる意味がどれほどあるのか。やるならきちんとしたサポート体制の整備も一緒にやるべきだろう。

    高校生、責任負う自信ない 宮内加奈恵・沼津東高新聞部部長

     静岡県立沼津東高校の新聞部部長を昨年5月から務めています。3年生は受験準備に入っているため、現在活動している部員は1、2年の16人。年3回の「沼津東高新聞」のほか、写真を中心にした速報を年に約170回出すなど、熱心に部活に取り組んでいます。

     18歳選挙権が実現した昨年は、一部が有権者になった3年生はもちろん、全校生徒にとっても政治が身近に感じられた年でした。新聞部では春先に現在の2、3年生を対象に選挙に関するアンケートを行いましたが、約9割が「選挙権を持った時は投票に行く」と答えました。実際に7月の参議院議員選挙には有権者になった3年生の多くが投票に行ったようです。

     一方で「不安や戸惑いがある」と答えた人も約半数いて、その理由は「候補者の選び方がわからない」「具体的な準備方法がわからない」などでした。我が家でも大学2年の姉(19)が初めての投票に行きましたが、親に投票の仕方をあれこれと聞いていました。投票したある部員は「テストや学校行事で忙しくて十分な準備時間が取れなかったためインターネットで政策を比べて投票した。社会の一員になったという実感があった」と話しています。私自身はまだ17歳ですが、投票を通して早く社会に関わりたいと思います。

     投票権を持つことで高校生も地域の問題などに関心を持つようになります。沼津は高校が集中していて若者が多い市ですが、近くの大学が限られているため、大学進学者の多くが地元を離れてしまいます。もっと若者目線で地元を活性化させる、社会に参加できるようになるという意味で、18歳選挙権は意義があると思います。

     しかし、18歳成人となると反応は異なります。アンケートでは18歳成人についても質問しましたが、賛成は3割弱で、7割以上が「反対」。「変える必要がない」「未熟」「高校生の中に成人と未成人が分かれる」というのが主な理由です。具体的な意見として「責任感を持つようになるだろうが、解放感から羽目を外すことも増えるのでは」「飲酒や喫煙ができるようになることの影響が大きく、トラブルが増えるのでは」「大学や就職など、環境の変化が大きい中で年金のことまで考えるのは大変。心の余裕をなくしてしまう」など。一方で賛成派には「早い年齢で責任感を持たせるのはいいこと」「少年犯罪への意識が変わり、抑止につながる」という意見もありました。

     私自身、18歳成人についてはまだよく分からないというのが本音です。選挙権は高校生に社会参加のきっかけをつくる上で効果的だと思いますが、成人は誕生日が来たその日からさらに多くの法的責任を負わなければならなくなるのに、果たして今の高校生にできるのか。現実問題として受験を控えた3年生に大学入試センター試験直前の成人式に出席するような余裕はないし、多くの18歳にとっての最大の関心事は大学合格か就職内定かでしょう。それが決まるまでは精神的にも不安定です。その中で大人としての人格を磨くような時間も余裕も自信も、正直言ってありません。「選挙権=成人」という感じがしないのです。

    18歳は区切り社会参加促す 田中治彦・上智大教授

     2001年ごろから「成人年齢を18歳に」と主張してきたが、社会の動きは鈍かった。昨年夏に18歳投票が実現したことで、ようやく成人年齢の引き下げが本格的に議論されるようになってきた。

     なぜ成人は18歳にすべきか。いくつかの理由を指摘したい。まず現在、20歳を成人としているが現行の教育制度の中で明確な区切りとは呼べず、成人式も「通過儀礼」としての意義を失っている。多くの子どもたちが高校を卒業する18歳こそ区切りにはふさわしい。実際に、世界の大半の国が18歳を成人としている。次に大人のイメージとして「働いて自活する」ことが挙げられるだろうが、大学進学率が伸びた今でも約2割は高卒で就職している。実際に働いて自活している18歳が相当数いる。さらに若者を幅広い意味での社会活動や政治に参加させるきっかけとなる。18歳の若者の中にはスポーツや芸能、ネットを通して盛んに社会に発信している人もいる。ここでいう政治は選挙の投票のことだけでなく、広く社会に参加するという意味だ。例えば、地域の問題などに興味を持ち、住民の声を聞き、実際に行政へ提言していくような行動のことだ。こうした社会参加の経験が社会全体を活性化していくことにつながる。

     では、誰がこうした意識を若者に持たせるのか。最も大きな役割は高校にある。現在の教育課程の中で高校の役割は進学か就職のための準備に終始しており、本来の目的である「大人になるための教育」がなされていない。成人年齢を18歳にすれば高校の本来の目的が復活することになる。現在も「政治経済」などの教科はあるが、あくまでも受験のための知識でしかなく、市民的な実践力が養われていない。知識だけでなく、社会参加するための発想やスキル、態度を教えていく。普段から参加体験型の学習が重要になる。また高校だけでなく、中学から始めることも必要だ。思春期を迎える、つまり大人を意識しだすころから大人を想定したワークショップを始める。中学、高校と連動し、今はほとんど関与していない大学も加わって責任ある大人を育成していくべきだ。「18歳=大人」ではなく、「大人の入り口」と考えた方が理解しやすい。

     課題もある。民法上、18歳成人となれば高校生でも親の同意なくいろいろな契約が可能になる。詐欺などの被害にあうことも想定されるが、そのためにもしっかりした消費者教育を行うことが必要になる。これもまたロールプレーなどの参加型学習を通して、実際に起きている詐欺被害の実例などを体験的に学習すべきだろう。

     民法ではないが、酒とたばこの問題は関心が高いだろう。やがては18歳にするとしても、生徒指導の観点から高校在学中は禁止し、18歳になった次の4月1日以降とするような法制度上の配慮は必要だ。少年法も原則は18歳にそろえるのが望ましいが、18歳と19歳についての現在の更生教育は有効に働いており、何らかの経過措置や補償的な施策をとる必要があるだろう。基本は再犯を防ぐことが最大の目的で刑罰を科すことではないからである。


    公募意見に多い「懸念」

     政府方針によると、今回の改正は民法に限り、別の法律に基づく飲酒や喫煙、影響が出てくる少年法などは対象とはしない見通しだ。法務省は成人年齢引き下げを前提に、国民の意見を公募し194件の意見が寄せられた。高校3年生の一部が在学中に成人となることへの懸念は大きいようで、「消費者被害が増大する」などといった、引き下げを懸念する意見が大多数だった。また施行までの周知期間の3年は短いとの指摘が多数を占めた。


     ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    さいとう・たまき

     1961年、岩手県生まれ。筑波大大学院修了。現在、筑波大医学医療系教授(社会精神保健学)。若者社会にある「ひきこもり」を指摘した。主な著書に「ひきこもりから見た未来」など。


     ■人物略歴

    みやうち・かなえ

     1999年生まれ。静岡県裾野市在住。同高2年。学校新聞「沼津東高新聞」は今年度の県高校新聞コンクールで最優秀賞、全国高校総合文化祭・年間紙面審査賞優秀賞を受賞。


     ■人物略歴

    たなか・はるひこ

     1953年生まれ。東京都出身。東大大学院修了。立教大教授を経て2010年、現職。専攻は社会教育、市民教育。著書に「ユースワーク・青少年教育の歴史」(東洋館出版)など。

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