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<記者の目>東電事故と国民負担=川口雅浩(東京経済部)

福島第1原発1~4号機と汚染水貯蔵タンク群。事故処理費用は想定から2倍に膨らむ=福島県大熊町で、本社ヘリから喜屋武真之介撮影

「原発は安い」撤回を

 東京電力福島第1原発事故の賠償費用と全国の老朽化原発の廃炉費用について、政府は、電力自由化で新規参入した新電力の契約者にも負担を求めることになった。原発を持たない新電力に原発事故の賠償費用などを負担してもらう見返りに、大手電力が原発や石炭火力など安価とされる電力を新電力に供給するバーター取引となるが、矛盾が多く、納得がいかない。

     毎日新聞は昨年9月8日朝刊1面で、政府が原発の廃炉や福島第1原発事故の賠償を進めるため、新電力にも費用負担を求める方向で調整に入ったことを特報した。電力自由化で大手電力から新電力に契約を切り替える消費者が増えた場合、大手電力が巨額の賠償や廃炉費用を賄えなくなるためで、大手電力の救済策であることを指摘した。

     反響は大きかった。民放テレビが朝のワイドショーで紹介したほか、「Yahoo!ニュース」のアクセスランキングで1位となった。ネットには「マスコミは政府の圧力に屈せず、こういった大切な事実をもっと報道してくれ」などの投稿が並び、関心の高さを実感した。多くの市民グループや超党派の国会議員連盟も反対を表明した。

    有識者会議提言、ほぼ原案通り

     しかし、9月末に始まった経済産業省の有識者会議は、12月までわずか2カ月余の議論で一部修正はあったものの、ほぼ経産省の原案通りの提言をまとめた。有識者の中にも少数ながら反対を唱える委員はいたが、大勢は変わらなかった。この間、一連の動きを積極的に報じたつもりだが、結果的に政府を動かすだけの力を発揮できず、筆者としては無念さを感じた。

     福島第1原発事故の賠償費は従来の5・4兆円から7・9兆円に膨らみ、廃炉や除染などを合わせた事故処理費用は従来の11兆円から21・5兆円に倍増することになった。経産省は賠償費7・9兆円のうち、今回増額分とほぼ同額の2・4兆円は「原発を保有する電力会社が事故に備えて積み立てておくべきだった」として、大手電力だけでなく、新電力の利用者にも2020年度から40年間、送電線の使用料(託送料)に上乗せして負担を求めることにした。

     この説明を素直に理解できる人は少ないだろう。「今まで安さを売りに客を集めていたレストランが、実はよく計算したら採算が合わなかったので、後から来た客に前の客の分を転嫁するようなものだ」(京都大学大学院の安田陽特任教授)との指摘が、問題点を端的に表している。

     経産省によると、40年間で2・4兆円の負担は、一般家庭で電気料金が月18円上がる計算になるという。経産省は今回、福島第1原発事故の賠償や廃炉など関連費用が1兆円増えても、発電コストは1キロワット時当たり0・06円増にとどまるとの試算を発表した。さらに、この事故関連費用が10兆円増えても、原発の発電コストは同10円台に抑えられ、火力発電(石炭火力と液化天然ガス火力の平均)の13・0円よりも安いという。

     本当だろうか。原発の発電コストに詳しい立命館大の大島堅一教授によると、1970~2010年度の実績値で原発の発電コストは8・5円で火力発電の9・87円より安いが、今回の事故費用を含めると13・1円となり、火力よりも高くなるというのだ。経産省の試算は原発が40年間、稼働率70%で理想的に運転した場合のモデル計算であり、楽観的すぎるとの批判がある。これに対し、大島教授の試算は有価証券報告書の実績値に基づく「実際のコスト」だけに、説得力がある。

     経産省は今なお「原発の発電コストは安い」と主張するが、もしも本当にそうならば、原発事故の賠償や老朽原発の廃炉費用を新電力の契約者に求める必要はないだろう。20年に電気料金の算出方法に規制がかからなくなった後も、競争で優位な大手電力が自社の電気料金から回収すればよいではないか。

    国民へ費用転嫁、明らかな矛盾

     経産省が「原発は安い」と言いながら、原発事故の賠償や老朽原発の廃炉費用を国民全体に押し付けるのは明らかに矛盾している。大手電力が原発や火力の電力を新電力に供給するバーター取引も、再生可能エネルギーの芽を摘み、原発を存続させる保護政策に他ならない。

     大手電力が原発の再稼働を目指すのは、短期的に燃料費が安くなり、経営が楽になるからだ。平時は「安価」な原発だが、事故を起こせば膨大な賠償費がかかり、老朽化した後の廃炉費も、これまでの電気料金では足りないことが今回の議論で判明した。政府と大手電力は国策・民営の原発政策の誤りを認め、国民に負担を求めざるを得ないと正直に語るべきだろう。

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