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女性参政権運動の時代 差別残る現在から問う

 大英帝国の全盛時代といえば、第一次世界大戦前の十数年ですね。国王はエドワード7世からジョージ5世、イギリス海軍の圧倒的な力を支えに広大な植民地を支配する、いわばボーア戦争の無慈悲な指揮官キッチナーが象徴する時代。イギリス本土ではこれまでにない繁栄の続く、シャーロック・ホームズが活躍するロンドンのイメージ。いまでもノスタルジーを込めて描かれることの多い時代です。

     でもその時代には裏の顔がありました。貧富の格差が激しく、産業労働者の不満を背景として労働党が発足する。男でも財産がなければ参政権を認められず、女性に至っては誰も投票権を認められない。その時代のイギリスで展開した女性参政権運動を題材としたのがこの映画です。

     舞台は第一次世界大戦直前、1912年のロンドン。24歳の女性モード・ワッツは、7歳の時から洗濯工場で働いてきました。女性参政権運動はもちろん、これまで政治に関わることはなかったんですが、職場の友人に誘われて公聴会に参加したら前に押し出され、こともあろうに首相の前で証言することになる。そんな偶然のできごとに背中を押されるように、モードは女性参政権運動に加わってゆきます。

     ただ、同じ洗濯工場で働く夫サニーは、モードの政治活動を認めません。集会に参加して警官に捕まったモードを厳しく非難し、最終的には家からモードを追い出して、息子のジョージに会うことも禁止してしまいます。職場を追われ、家を追い出され、息子にも会えなくなったモードは、女性社会政治同盟(WSPU)のメンバーとともに、暴力に訴えてでも女性の参政権の実現を求める活動を展開していきます。

     昔のことだと思わせない映画です。女性の参政権は既に実現していますから、映画にすると、どうしても幸せな現在の視点に立って不幸だった過去を見つめるようなものになりやすい。昔は大変だったんだな、というわけですね。ところがこの映画は、不幸な過去を現代から離れた世界として描くのではなく、その時代のなかに観客を巻き込んでしまいます。

     といっても、過去のイギリスを美化しているわけではありません。婦人参政権の運動というと、私が思い出すのは「メリー・ポピンズ」に出てくるお母さんですが、そのお母さんは、豊かな銀行家の妻という立場を脅かされることなく参政権運動に加わることができました。それとは違い、この映画に出てくる女性の現実は、ひたすら悲惨、職場では男性幹部による性的虐待も横行しています。この映画では男の特権や女性への差別をおどろおどろしく描くようなことは特にしていませんが、まさにだからこそ、不公正な社会の姿がそのまま伝わってきます。

     映画に引き込まれる理由は、一貫して主人公モードの視点に徹しているからでしょう。逆にいえば、運動全体の姿はそれほど描かれていない。リーダーのエメリン・パンクハーストを演じるのは名優メリル・ストリープですが、もう気の毒なくらい、少ししか出番がない。ヒラの活動家がリーダーに出会う機会なんて、たいしてないわけです。

     だから主演女優に力がなくてはいけませんが、そのキャリー・マリガンがいい。黙って耐えることに慣れてきた女性が胸のうちに潜めた絶望と怒りを、激しい言葉や大仰な演技に頼ることなく伝えています。

     女性の参政権は実現した。いまのイギリス首相も女性です。でも、社会的な不公正がなくなったわけじゃない。今なお性による差別が残る社会だからこそ、この映画は過去のエピソードに終わらない力を持っています。(東京大教授)

         ◇

     次回は「エリザのために」です。


    ■監督 サラ・ガヴロン

    ■出演 キャリー・マリガン/ヘレナ・ボナム・カーター/ブレンダン・グリーソン/アンヌ・マリー・ダフ/メリル・ストリープ/ベン・ウィショー

    ■106分、イギリス

    ■東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・大阪ステーションシティシネマほかで27日公開

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