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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ヒッチコック映画読本』『神々が見える 神社100選』ほか

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今週の新刊

◆『ヒッチコック映画読本』山田宏一・著(平凡社/税抜き2000円)

 1981年に邦訳刊行された『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』は、映画の神様といわれたヒッチコックが、観客を怖がらせる技術のすべてを語った名著。いまだに読まれ、映画にもなり、昨年、日本公開。

 これを訳したのが山田宏一(蓮實重彦と共訳)だった。『ヒッチコック映画読本』は、その長年の傾倒と研究を一冊に。通俗、商業主義と批判されることもあった「サスペンスの巨匠」。しかし著者は、その多彩な映画実験を擁護、顕彰する。

 各作品の精緻な鑑賞もさることながら、トリュフォーへのインタビュー、蓮實重彦との対談など、ファンを十二分に満足させるはず。サイレントから出発した監督ならではの映画術に、著者は巨匠の神髄を見るのだ。

 「映画のぜいたくを尽くした純粋なたのしさこそ、ヒッチコック映画の醍醐味(だいごみ)なのである」という言葉に引きずられ、また「サイコ」「裏窓」が見たくなる。

◆『神々が見える 神社100選』芸術新潮編集部・編(新潮社/税抜き2000円)

 日ごろ、信心がなくても初詣は欠かさず、近くの神社で柏手を打ち願いを懸ける。しかし、最寄りの神社が祀(まつ)る神や、故事来歴については、意外に知らないのでは?

 芸術新潮編集部編『神々が見える 神社100選』は、全国に10万あるといわれる神社の中から「神々が見える」をキーワードに100社を厳選、八つのテーマ別にくわしく紹介する。美しいカラー写真も見どころだ。

 伊勢、出雲、大神(おおみわ)、宗像(むなかた)などは、古代から神々と人を結んできた大社中の大社。「出雲」は、国つ神の王・オオクニヌシを祀り、日本一の高層神殿、太い注連縄(しめなわ)など「何もかもが大きい」。「大きい」といえば、大阪府交野市の「磐船(いわふね)神社」は、社の背に巨岩が鎮座し、これがご神体。いやはや度肝を抜かれる光景だ。

 第8章は「諸国一の宮めぐり」。その「国」一番の神社が「一の宮」。氷川、寒川、彌彦(いやひこ)など、さすがに風格が違う。定年後に時間をかけ、すべて巡ってみたい。

◆『夜の歌』なかにし礼・著(毎日新聞出版/税抜き2300円)

 がん再発で死線をくぐりぬけた、名作詩家にして直木賞作家のなかにし礼。これが最後と、渾身(こんしん)の力で、我が生涯を展望、長編小説『夜の歌』として集大成した。満州での戦争体験、戦後の歌謡界での成功、兄の裏切りで背負った巨額の借金と、波乱の過去を語るのに「ゴースト」という女神を設定し、飛翔(ひしょう)するが如(ごと)く、光と闇の世界を遡上(そじょう)していく。美空ひばり歌唱の名曲「さくらの唄」の「何もかも僕は なくしたの」と書かれた歌詞の意味が、本書でようやくわかった。

◆『人形』ダフネ・デュ・モーリア/著 務台夏子/訳(創元推理文庫/税抜き1000円)

 ダフネ・デュ・モーリアといえば、『レベッカ』『鳥』など、ヒッチコック作品の原作者として有名だ。そんなイギリス女流作家の知られざる14の短編を集めたのが『人形』(務台夏子訳)。海辺で発見された手記に記された、美しいバイオリン奏者に恋いこがれた男性の狂気じみた愛を描く「人形」、平穏な島を襲う突然の嵐を描く「東風」など、どれも日常に潜む異常心理を扱う点、たしかにヒッチコック好みだ。「人間の昏(くら)い欲求に応えてくれる」とは、訳者によるモーリア評。

◆『夏目漱石』十川信介・著(岩波新書/税抜き840円)

 昨年は没後100年とあって、著作や関連書、研究書の出版が相次いだ。十川信介『夏目漱石』は、コンパクトな新書ながら、明治の文豪の人生と作品を精密に追った評伝。「約束は必ず守る、義理がたい気性」「はるか遠くを眺めるのが好きだった」と、文豪の知られざる素顔もスケッチする。漱石の初期作品に「『鏡』や『夢』に世界を見る物語が多い」と指摘して、「幻影(まぼろし)の盾」と「薤露行(かいろこう)」を分析するなど、新たな作品理解にも役立つ。写真、図版なども豊富に収録する。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年2月5日号より>

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