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余録

「自分は今まで此の様な威儀犯すべからざる銅像を…

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 「自分は今まで此(こ)の様な威儀犯すべからざる銅像を見た事は無い」は明治の終わりにニューヨークで自由の女神を見た作家、永井荷風(ながいかふう)の言葉である。思わず「身を其(そ)の足下になげうって拝伏したいような気がする」とまで記している▲「この銅像は新大陸の代表者、新思想の説明者であると同時に、金(きん)城(じょう)鉄壁(てっぺき)の要塞(ようさい)よりも更に強力な米国精神の保護者である」(あめりか物語)。後に日本の軍国主義を痛罵(つうば)する日記を残した荷風は、堅固な城や壁よりも移民を迎える女神に米国の強さを見たのである▲その台座には詩人、エマ・ラザルスの詩が掲げられている。「自由の空気を吸わんと熱望する人たちよ。身を寄せ合う哀れな人たちよ。住む家なく、嵐にもまれし者を我に送りたまえ。我は、黄金の扉にて灯を掲げん」。黄金の扉とは近くのエリス島の移民局であろう▲ひるがえって今日、メキシコとの国境に「物理的な壁」を速やかに造る大統領令に署名したトランプ米大統領である。1100万人といわれる不法移民にいら立つ保守系世論の喝采(かっさい)を浴びた選挙戦での目玉公約で、「米国は今日から国境を取り戻す」と見えを切った▲だが日本円で2兆円を超えるといわれる建設費である。大統領は後日メキシコが支払うというが、もちろんメキシコは拒否した。万里の長城みたいなものを現代に造ったとして、はて費用対効果は見合うのか。メキシコ人が威容に拝伏すると思ったら大間違いである▲もし壁が築かれたら、それは自由の女神と正反対の意味で今日の米国精神のモニュメントとなろう。人を拒む無表情な壁が延々と延びる光景の何と醜いことか。

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