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モリシの熊本通信

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地域のつながりが「安全網」 /佐賀

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 熊本地震のせいか、2016年は本当にあっという間だった。正直言って、地震前後の細かい記憶があまりない。しかし、今も時折発生する小さな揺れのたびに、心臓がつかまれるような感覚に襲われ、心拍数が急激に上がる。脳は嫌な記憶を消そうとするのだろうが、体は覚えているのだ。

 次の大地震がいつ、どこで起きるのか誰にも分からない。年初という今のタイミングで、あの経験を伝えておくべきだと考え、当時のことを振り返ることとする。

 2016年4月15日。前日の悪夢を振り払うかのように、誰もが自宅の片付けなどに集中していた。この日はまだ冗談を言い合う余裕があった。テレビはすべてのチャンネルで、被害があった同じ建物ばかり中継していた。「被害が少なくてよかったね」。会う人会う人が安堵(あんど)を口にした。町全体が、日常生活を取り戻そうとする、前向きな雰囲気に包まれていた。

 私は、仕事の調整や、前職時代に仲が良かった記者らからの電話取材に追われていた。ひと段落して、同級生の妻と、生後7カ月の息子が寝息を立てる布団に入ったのが日付をまたぐころ。まさかその90分後に「本震」が来るとは想像だにしなかった。

 生命の危険を感じた恐ろしい本震直後、家族で公園に避難した。暗闇の中で身を寄せ合う大勢の人たち。もうそこに余裕は存在しなかった。

 私は、会社経営やまちづくりで、組織構築の経験があった。地元有志らとすぐさま運営態勢を整え、公園で備蓄物資の配布や炊き出しにあたった。今は非常に後悔しているが、家族そっちのけで。

 あまり語られないことだが、前震、本震ともに夜間の発生だったため、ほとんどの人が2日続けて寝ていない。極度の疲労、緊張、そして空腹。人は極限状態になると、「人間性」が出る。私が得た教訓の一つだ。私は炊き出し中、幾度となく怒りをぶつけられた。

 同じ被災者である彼らを責めるつもりは毛頭ない。ただ、「極限状態に人間性が出る」ということは、「人間の特性」として理解しておいた方がよい。そうすることで、ある程度のストレス耐性がつく。

 一方で、自ら手を挙げて、炊き出しを手伝ってくれた人も多かった。年齢、性別を問わず、中には10代もいた。災害時には、地域のつながりがものを言う。地域活動がある意味「セーフティーネット」となり得るのだ。

 地域のつながりが希薄な地域で大災害が発生したらと思うと、背筋が寒くなる。「めんどくさい」などと、若者を中心に敬遠されがちな地域活動。しかし、災害時のことを考えると、その重要性は見直されてもよいのではないだろうか。=次回は2月25日掲載


 ■人物略歴

田中森士(たなか・しんじ)

 PR会社「クマベイス」代表取締役、熊本市社会教育委員。熊本県立高常勤講師、全国紙記者を経て古里の熊本市で起業した。熊本地震後は復興応援キュレーションメディア「むしゃんよか熊本」を運営し、復興支援活動にも携わっている。モリシは愛称。熊本市南区在住。

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