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余録

「ギレアドバルサムの香油」は…

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 「ギレアドバルサムの香油」は、古代イスラエルのギレアドを原産地とする木の樹脂が原料というふれこみだった。19世紀前半、英国に現れたこの万能強壮薬は古代から伝わる妙薬として米国にも販売網を広げ、両国で多くの常用者を得た▲実はソロモンという靴の行商人が調合したこの薬だが、やがて使用者が広がると多くの禁酒主義者がこの薬の常習者になっていた。薬の成分の90%はブランデーだったのだ。ソロモンはアルコール中毒になった常用者の友人につかまり、さんざん殴られるはめになる▲以後、インチキ薬としての悪名だけが残ったギレアドバルサムの香油だった(シファキス著「詐欺とペテンの大百科」)。ただの酒を莫大(ばくだい)な財へと変えた「妙薬」のオーラである。今度の偽薬品事件では1錠5万5000円という薬の価格がペテン師の標的となった▲C型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品が見つかった事件である。背景には正規の医薬品流通ルートと異なる裏の流通ルートがあり、そこで偽造品が入り込んだらしい。病院や薬局で余った薬を流通させる裏ルートだが、偽物をさばくには絶好の舞台となった▲世界を見渡せば偽薬品の流通規模は約8兆円の試算もあり、途上国では医薬品の10~30%は偽造といわれる。さらに先進国でも医薬品の高額化がペテン師たちの悪知恵を刺激し続けている。内外ともに偽薬品を流通させてきた制度の穴は一刻も早く封じるべきだろう▲病に苦しむ者には神とも仏とも頼む医薬品だ。その高価格をもいとわない患者をあざ笑うかのような偽薬品はもう二度と流通ルートに乗せてはならない。

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