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視点・トランプ時代/9 政治と科学 ここでも事実の軽視か=論説委員・鴨志田公男

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 「私たちの自由は奪えない」

 「事実と科学の検閲を阻む」

 地球温暖化対策にかかわる環境保護局(EPA)や農務省など米政府機関の関係者らが、ツイッターに非公式アカウントを開設し、トランプ政権を批判するつぶやきを次々に流している。政権が打ち出した検閲まがいの指示に反発してのことだ。

 ロイター通信などによれば、これらの機関は、メディアや一般向けの情報提供を一時停止するよう指示された。EPAの研究成果やデータは政権が起用した幹部の検討後でなければ、発表ができなくなったという。

 トランプ氏が温暖化に懐疑的なことは広く知られている。この他にも、ワクチン接種の副作用で知人の子供が自閉症になったと主張するなど、科学的根拠を欠く発言を続けてきた。EPAなどへの指示は明らかに行き過ぎだ。自説に不都合だからといって、国民の共有財産とも言える科学的データを、覆い隠そうと言うのだろうか。

 大統領就任式2日前、米航空宇宙局と米海洋大気局は地球の平均気温が昨年、3年連続で観測史上最高を記録したと発表した。温暖化の主因は二酸化炭素などの人為的排出だというのが両機関の見解だ。これは世界の科学界の共通認識でもある。

 オバマ前大統領は科学技術担当補佐官を置き、助言を求めていた。今のところトランプ氏には、そんな動きもない。

 米科学振興協会のホルト最高経営責任者は「科学の進歩は公開性、透明性、アイデアの自由な流れがあってこそだ」との声明を発表した。政権に抗議する「科学者の行進」を実施しようという動きも広がっている。

 トランプ氏は2009年に、オバマ前大統領の温暖化対策を支持する新聞の意見広告に名前を連ねたことがある。温暖化対策は経済発展につながる。米国は世界の手本になるべきだ。広告はそう訴えていた。

 京都議定書に続く温暖化対策の枠組み合意を目指した、国連の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の開幕直前のことだ。あいにく会議は合意に至らなかった。トランプ氏の真意は不明だが、温暖化が事実かどうかとは別に、合意をビジネス上の利益につなげようと考えていたようにも思える。

 科学をおろそかにする国は、国民が事実に基づき、合理的な判断をすることを難しくする。

 ジョージ・オーウェルの風刺小説「1984」はそうした国家の危うさを描いている。

 科学の世界に「ポスト真実」を持ち込む権利は、大統領にもないはずだ。

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