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旅するように生きてみたら~人生折り返し地点の選択~

第19回 「旅するように生きるために必要なこと」(1)

「私は、だれからも必要とされていないのではないか……」

     初めて、会社に属さず、だれに寄りかかることもなく、フリーランスとして旅するように生きていこうと決めたとき、あまりの恐怖と孤独で、夜中に目覚めることがあった。

    30代に突入したころのことだ。それまで私は、いまでいえば「ブラック」と呼ばれるであろう会社で早朝から深夜、繁忙期は明け方まで働いていて、身も心もボロボロになっていた。同期の十数人のほとんどは、3~4年で精神的におかしくなるか、体を壊すかで辞めていった。

    「ははぁ、私たちは“使い捨て”なんだ。このままだったら、機械のように壊れるまで働かされるってことね」

     あるとき、やっとそう気づいた。

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     そして、「会社に注いできたエネルギーの分、自分自身を成長させること、その資源を使って働くことに置き換えたら、なんだってできるはずだ」と、会社を辞め、フリーランスとして生きることにした。

     もちろん、人間らしい生活と、やりがいのある仕事ができる会社もあるのだろうが、大したスキルも資格ももっていない30歳を過ぎた女に、再就職はむずかしかったこともある。

    「なんだってできる」と私は、いつも心のなかで自分自身に言い聞かせるようにつぶやいていたけれど、ときどき「私はなにもできないんじゃないか」という不安が襲ってきて、このままずっとだれからも必要とされない恐怖に、ぶるぶると震えた。

     朝起きて、なにもすることがない。仕事もない。頼る人もいない。わずかの貯金と失業保険を食いつぶしながら生きていて、その日一日なにをしていいのか、どこに向かってがんばればいいのか、さっぱりわからなかった。

     まるで自分だけが、せわしく動いている社会から、宙にふわりと浮いて取り残されているみたいだった。なにかにコントロールされないこと、なににも属していないことが、こんなに怖いことだとは思わなかった。

     その後、あれこれとバタバタもがき、フリーランスの着物着付け講師、カメラマン、ライターの仕事をしながら、並行して生計のために非正規の仕事を数えきれないほどして、作家という職業だけで身を立てるまで10年以上かかった。といっても、あのころ、作家になるなんて夢にも思っていなかったけれど。

     ただ、やりたいことをして自由に生きたい、時間をかければそれはきっと可能なはずだと、しつこく思っていた。

     その間、私は、何度か「仕事もお金も住むところもない」という経験をして、その状況をあまり恐れなくなった。それどころか、なにももっていなくて自由に時間を使えること、どこでも暮らせることであることが、たまらなく快適で、いとおしくなった。

     私の生き方は、ずいぶん特殊で、マトモではない、そんなことは望まないと思う人も多いかもしれない。

     しかし、人は一生を通して、どこかで仕事を変え、住む場所を変え、家族を変えて生きていくのではないか。人生の道のりは、短いようで、生き抜くことを考えると意外に長い。

     ひとつの仕事のスキルだけで生き抜ける時代でもないし、結婚したから、就職したから、一生安泰というわけではないだろう。

     女性の多くは80代まで生きる。結婚や子育てや介護など、環境が変化しながらも、その場所、その場所で、自分のできることを提供し、居場所をつくっていく。

     だれもが、多かれ、少なかれ、「旅するように生きている」。

     だとしたら、なにかにコントロールされて、「しょうがないから、この道を行くしかない」というのではなく、主体的に「これが私の行きたい道」という選択をしたほうが断然楽しい。

    「どんなところに住むか」「どんな人と付き合うか」「なににお金を使うのか」「どんな時間の過ごし方をするのか」「どんな挑戦や冒険するのか」、想像と選択の幅が広いほうが、人生の旅はおもしろいではないか。

     そもそも、自分の人生をコントロールできるのは、自分しかいないのだ。

     今回は、私が数十年の経験から得た「旅するように生きるための七カ条」をお伝えしたい。むずかしいことではない。ただ、いま生きている環境であるところの“村社会”の価値観を疑って、自分自身の価値観をつくっていくこと。これらは、住む場所を変えても、変えなくても、生きていくために必要なことだと思うのだ。

     その七カ条とは……

    【旅するように生きるための七カ条】

    第一条 世の中に対して「なにができるか」考え続けること

    第二条 失敗をあたりまえだと考えて、一歩を踏み出すこと

    第三条 万が一の「逃げ道」を準備していること

    第四条 出逢った人を大切にすること

    第五条 人との比較ではなく、自分の「好き」を追求すること

    第六条 先の予定を決め過ぎない、モノをもちすぎないこと

    第七条 むずかしく考えすぎず、ものごとを明るく、シンプルにとらえること

     それでは、今回は最初の2つについて説明しよう(残りの5つは次回)。

    第一条 世の中に対して「なにができるか」考え続けること。

     私が尊敬する旅人の一人は、映画「男はつらいよ」の寅さんだ。テキヤの見事な口上(「啖呵(たんか)売」というのだとか)で人びとを魅了し、ガラクタのようなものをどんどん売りさばいていく。口が達者でいつも人を笑わせたり、人の世話を焼いたりするので、旅先では、いつも人気者になり、信頼を寄せられる。

     仕事のスキルと人間味は、旅する人間がもつべき重要な資源だ。

     世界を旅すると、10代から「どうやって生きていくのか」をリアルに考えている子どもが多くてがくぜんとする。アルゼンチン在住の友人の14歳の娘は学校に行きながらカメラマンをしていたし、15歳の娘は、お菓子作りに精を出していた。

     友人夫婦は「この国では、いろんなことができないと生きていけない。嫌なこと、苦手なことをやっても続かないから、情熱があることを存分にやらせる」という。

     台湾の大学生たちは、日本から買ってきた服をインターネットで売ったり、食べ物の屋台を仲間と一緒に出したりして稼いでいる。就職しても「鶏口となるも牛後となるなかれ」は、よく言われることわざで、集団のなかで力をつけながら、ステップアップや独立のチャンスをうかがっている人ばかりだ。

     世の中に対して「自分はなにができるのか?」と考えて、あれこれ試すことは、自分自身の資質を知ること、社会が求めているものを知ることにもつながっていく。

     かつては日本であっても、生きていくために、器用な女性は和裁や洋裁を覚えたり、器量のいい女性は芸事を覚えたりした。農家の女性は、家でつくった野菜を売りに行ったものだ。だれもが個人としての生きるすべをもとうとしていた。

     日本は平和になりすぎたのか、資本主義の影響なのか。現代は、雇われること、なにかに依存することばかりに目が向き、一人で生き抜く力が乏しくなっているように思えてならない。いや、まあ、かつての私がいちばんそうだったのだけれど。

     想像力をうんと働かせて、「自分はなにができるのか」、本気、かつ長期戦で考えてほしい。

     いまやっている経験を生かしてもいいし、新しいことに挑戦してもいい。旅するように生きるには、自分のなかに少しずつ生きる力を蓄えていく必要があるのだ。

     私は、何冊かの本で「60歳までにコツコツ貯金するよりも、60歳で月10万円稼げる人になろう」と言っている。経験上、多くの仕事は、3年やればようやく稼げるようになり、5年でベテラン、10年で人に教えられるレベルに達する。いますぐ稼ぐのはむずかしくても、50歳、60歳、70歳に焦点を当ててもいいのではないか。

     10年先を考えたら、思ったよりもずっとたくさんの可能性が広がっていることに気づくはずだ。

    第二条 失敗をあたりまえだと考えて、一歩を踏み出すこと

     人生の旅には、失敗がつきものだ。新しい場所で生きようとするなら、なおさらのこと。

     でも、ずっと同じ場所にとどまっているから、「失敗しない」ということはない。

     ゆであがっていくカエルみたいに、じわじわとなにかの危険にさらされていることだってある。その場所から飛び出すことで、一時的に痛い思いをするかもしれないが、もっとすばらしい景色が見られるかもしれない。そもそも居心地のいい場所から抜け出さなければ、自分の限界は超えていけないではないか。

     私は、いつも一歩を踏み出すとき、その慣れ親しんだ場所を離れることがつらくてたまらない。ちゅうちょするのだけど、新しい冒険をしなければ気が済まないタチだからしょうがない。

     そして、かならず、つぎの場所で、仕事や住まいや人間関係など、数えきれないほどの失敗をする。それでも、「ここに来なきゃよかった」「あの場所にとどまっていればよかった」と思うことはない。

     最初からうまくいくわけはないのだ。旅先で迷っているうちに道を覚えるように、やっていれば、だんだんうまくいくようになってくる。「これはこれでよかったのだ」と思うときはくるし、そのときは、かならず、“なにか得ているもの”がある。

     「怖いのは、失敗することではなく、なにもしないことだ」とはよくいわれる言葉であるが、人生にとって大事なことは、「成功したか、失敗したか」よりも、「やりたいことをやったか、やらなかったか」ではないだろうか、と人生の半分をとうに過ぎたいま、やっと理解できることである。

    「旅するように生きるために必要なこと」は、まだいくつかある。

     それは、つぎの回でお伝えしたい。

    有川真由美

    有川真由美(ありかわ・まゆみ)作家、写真家。鹿児島県姶良市出身。熊本県立熊本女子大学生活科学部生活環境学科卒業、台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程修了。 化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性へのアドバイスをまとめた書籍を刊行。46カ国を旅し、旅エッセイも手掛ける。著書はベストセラー「感情の整理ができる女(ひと)は、うまくいく」「30歳から伸びる女(ひと)、30歳で止まる女(ひと)」「仕事ができて、なぜかうまくいく人の習慣」(PHP研究所)他、「感情に振りまわされない―働く女(ひと)のお金のルール」「人にも時代にも振りまわされない―働く女(ひと)のルール」(きずな出版)、「好かれる女性リーダーになるための五十条」(集英社)、「遠回りがいちばん遠くまで行ける」(幻冬舎)など多数。韓国、中国、台湾でも翻訳される。内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室「暮しの質」向上検討会委員(2014-2015)。日本ペンクラブ会員。

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