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<記者の目>親子の面会促進法案を考える=中川聡子(生活報道部)

昨年9月の親子断絶防止議員連盟総会。反対派も呼んで議論したが、平行線をたどった=東京都内で、中川聡子撮影

多様な家族観、反映を

 離婚後の別居親と子の面会交流促進を柱とし、今国会での成立を目指している「親子断絶防止法案」を巡り、賛否両論が巻き起こっている。推進派は「親子は愛し合うもの」と面会の重要性を主張、反対派は「家族の暴力は珍しくない」と面会による精神的・肉体的な被害が続くことを懸念する。「家族」に対する現状認識の隔たりは大きく、議論は平行線をたどっている。面会交流や離婚後の子の養育のあり方に一石を投じた意義はあるが、「子には両親が必要」という家族観を前提とした制度設計では、子の安心安全が二の次になる恐れがある。

    「子に両親必要」全てではない 

     離婚後の親権者の約8割は母親で、面会交流を求めるのは父親が多い。法案は子と別居する親の当事者団体が中心となって法整備を訴え、超党派の国会議員がまとめた。法案が明らかになった昨年、配偶者間暴力(DV)や児童虐待の母子支援に関わる弁護士や支援団体は「児童虐待やDVのあるケースへの配慮が明確でない」と懸念の声を上げた。別居親の団体関係者は「DVや虐待がある家族は例外。大多数は絆を壊され、人権侵害に苦しんでいる。片親による子連れ別居や面会拒否は防止すべきだ」と返した。

     しかし、DVや虐待がある家庭は例外なのか。家裁の統計によれば、離婚調停などの申立人は2015年で夫が1万7776人、妻が4万7908人。妻側は動機として「暴力」「精神的虐待」「生活費不払い」をそれぞれ1万人以上が挙げる。話し合いが困難で、妻側が仲裁を求めるケースも多い。児童相談所での児童虐待相談対応件数も右肩上がりで、15年度は10万件以上。DVを目の当たりにした子の脳は損傷を受けることが近年明らかになり、警察からの通告が増加している。

    子の利益第一に、支援の充実を 

     立石直子・岐阜大准教授(家族法)は「家庭状況は多様で、少なくとも家裁が関わる離婚事案ではDVは例外的ではない」と強調する。被害が深刻なほど、証拠集めは難しく、裁判所への保護命令申し立ての負担も重い。立証のハードルが高く、夫婦の対立が深くても家裁は原則的に面会交流を認める方向で進んでいるという。「別居親との交流が子や同居親の心身の安定を脅かす場合もあり、法成立には慎重になるべきだ」と話す。

     また、夫婦が対等に協議し、公平な取り決めができるとは限らない。

     法案は「当事者で養育費と面会交流を取り決めよ」「同居親は面会交流実現に努めよ」と定める。11年の民法改正でも養育費と面会交流を協議で定めると明文化されたが、取り決め割合は6割にとどまる。取材した元主婦は、夫が別の女性と同居を始めたため離婚を決意したが、夫と連絡がついたのは2カ月後。その間、夫からの送金も滞った。やむなく自ら公正証書を作り、慰謝料や財産分与の交渉は諦め、養育費や面会交流を取り決めた。女性は煩雑な児童扶養手当の手続きや再就職、家事育児で相当な負担を抱える中、月2回の面会のため元夫に便宜を図る。母子家庭の貧困率が5割以上である実情からも法的援助なしで公平な結論に至るのは難しい。

     「家族間では経済力や肉体的な力の差で上下関係が生まれやすいことに敏感になるべきだ」と棚村政行・早稲田大教授(家族法)は指摘する。「大切にしたいのは父母それぞれの主観的な認識。面会交流への希望や不安を丁寧にケアした上で調停や合意形成の支援が必要だ。双方が納得しない面会交流では、間に挟まれる子にしわ寄せがいく」

     別居親の子に会えない痛みも、同居親の負担感も配慮されるべきだが、最終的に面会交流のあり方を決める物差しは「子の利益」だ。多様な状況にある親子の利害調整にあたる司法や支援の充実がさらに重要になる。一方、家裁が受理した家事審判・調停事件は15年で92万件以上あり、5年で約15万件増えたが、予算は65億円前後で推移。全体の司法予算(裁判所関係の予算)は国の一般会計予算の0・3%と国際的にも最低水準だ。父母の対立から子を守り、当事者の負担を軽減するための第三者機関も少ない。

     家庭への国家の介入は極力避けるべきだが、家庭内の人権侵害は正されるべきだとの世論が高まり、児童虐待防止法、DV防止法、高齢者虐待防止法が生まれた。親子断絶防止法案は家族のあり方を一定方向に導くものであるのに、離婚や家庭内暴力の実態調査は少なく、「家族」の現状認識のずれによって議論は進まず、世論の盛り上がりにも欠ける。離婚後の子どもが健全に育つにはどういう法制度が必要なのか。別居親のみならず、子どもや同居親、法律専門家など幅広い関係者を交えたオープンな議論が不可欠だ。

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