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旅するように生きてみたら~人生折り返し地点の選択~

第20回 「旅するように生きるために必要なこと」(2)

 私がリアルに、「旅するように生きたい。もしかしたらできるんじゃないか」と思ったのは、うんと昔、ある有名作家の旅エッセーを読んだことがきっかけだった。「エーゲ海の島々を転々としながら、本を書いている人がいる」という事実は、私の人生が根底から変わるほどの衝撃であり、ずいぶん図々しいことではあるが、それからひとつの〝希望〟となった。

     それまで、私は「旅」「仕事」「生活」は、それぞれが切り離されたもので、旅をする「非日常」のために、がんばって働く「日常」があるものだと思っていた。

     ところが、その作家のライフスタイルは、「旅」も「仕事」も「生活」も一緒くたにあり、すべてが「日常」であり「非日常」だった。これって、なんて素敵なことではないか……。

     現実的に旅するように生きることを考えると、どこでも生きていける力が必須だった。それは、仕事のスキルだけではなく、もっと基本的な、生き抜くための“知恵”のようなものかもしれない。

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     さて、前回につづき、私の経験から得た「旅するように生きるための七カ条」をお伝えしたい。 

    【旅するように生きるための七カ条】

    第一条 世の中に対して「なにができるか」考え続けること

    第二条 失敗をあたりまえだと考えて、一歩を踏み出すこと

    第三条 万が一の「逃げ道」を準備していること

    第四条 出逢(であ)った人を大切にして、個人的なネットワークを築くこと

    第五条 自分のモノサシをもち、自分の「好き」を追求すること

    第六条 先の予定を決め過ぎない、モノをもちすぎないこと

    第七条 むずかしく考えすぎず、ものごとを明るく、シンプルにとらえること

     前回は、第一条、第二条で、自分ができることを考え続ける想像力と、それに飛び込んでいく勇気が大事であることをお伝えした。

     そして、今回は第三条から……

    第三条 万が一の「逃げ道」を準備していること

     「逃げる」というと、なんだかズルいようだが、旅をするように生きるためには、かならず、「うまくいかなかったら、~する」という“逃げ道”を準備しておく必要があるのだ。

     たとえば、私は「作家」としてじゅうぶんな稼ぎがなくなったら、海外か日本の田舎で生活費を抑えながら、細々と執筆活動を続けたいと思っている。副業でカメラマン、着物の着付け講師、セミナー講師をやってもいい。選択肢はいくらでもある。

     “逃げ道”というと、退路を断って真剣にやっている人に失礼だが、「ダメでもこれがある」という逃げ道があったから、私はひとつひとつの挑戦が、まるでワクワクとする冒険の旅のように思われた。“逃げ道”とは保険のようなもので、使うことがなければそれに越したことはない。最大限にやるだけのことはやって、それでも万が一、落とし穴にはまったときに使うものだ。

     組織で働いていても、「いざとなったら、やめて~をしよう」と思っていれば、心に余裕ができて、言いたいことも言えるし、やりたいこともできるのではないか。

     「これしかない」「逃げ道がない」というのは、人間にとって、もっともプレッシャーを感じることのひとつだ。逃げ道がないから、深刻な閉塞(へいそく)感に追い込まれてしまうのだ。

     話は少しばかりそれるが、数年前、修士論文の調査のために、専業主婦や結婚して仕事を辞めた人、仕事を続けた人など、「自分の人生、思い描いていたことと、どうちがうか?」というインタビューをしたことがあった。

     すると、「まさか、こんなことになるなんて思わなかった」という人が多かったのだ。

     たとえば、シングルマザーになった人は、

    「まさか子どもを抱えて離婚するなんて思わなかった」

     子育てのために退職をして、数年後再就職をしようとした人は、

    「まさか再就職がこんなにたいへんとは思わなかった」

     独身でハードワークをしてきた人は、

    「まさか男性と同じように働いて、体を壊すなんて思わなかった」

     というように。「まさか」のことは、そのときに考えればいいと思うかもしれない。でも、落とし穴(リスク)は、どんな道にも存在する。その穴に落ちないための準備、そして万が一、穴に落ちてもなんとか生き延びるための“逃げ道”を準備することは、自分で選択をしていくことへの責任でもある。

     逃げ道をもっていることは、どんな状態になっても柔軟に進むこと。生きていくことの本質だと、私は思っている。

    第四条 出逢った人を大切にして、個人的なネットワークを築く

     人生の幸運は、すべて人が運んできてくれる。

     住む場所を転々としていると、とてもたくさんの人に出逢う。これこそ、いちばんの恩恵なのだと思う。チャンスを与えてくれる人、なにかの学びを与えてくれる人、なにかを気づかせてくれる人、そして、自分がなにかを与えられる人……。人は、人によって磨かれていくものだ。これまでも、思いがけず、すばらしい人たちに出逢ったことで、私の人生のシナリオは、予想もしなかった展開になった。

     といっても、「自分にメリットがある人は?」と損得勘定で、成功した人、権力のある人に近づこうとしても、あまりうまくいかない。相手はこちらに興味がないし、まったくいい関係にもならない。

     それよりも、なにかと声をかけてくれる人、なにかと助言してくれる人、同じ志を持った人、助け合える人など、自然に近しくなる人をとことん大切にする。会社や組織、立場とは関係なく、そんなふうにできていく個人的なネットワークは、困ったとき、迷ったときなど、心強いサポーターになってくれる。

     私は、自分では手におえない問題を、「人とつながることで解決する」という術を、旅をしながら学んだ。人とのつながりこそ、生きていくための大切な資源なのだ。

     また、旅をしているように暮らしていると、過去に仲良くしていた人、ご恩のある人とも連絡が途絶えがちになる。

     しかし、新しく知り合った人、いままわりにいる人だけを大切にしても、期間限定の付き合いにしかならない。電話やメール、SNSなど、いくらでも連絡がとれる時代。遠く離れていても、実際の距離は関係ない。過去にお世話になった人たちへの感謝を忘れず、関係を積み重ねていくことが、自分を長期にわたって支えてくれる大きな存在になっていくはずだ。

    第五条 自分のモノサシをもち、自分の「好き」を追求すること

     旅するように生きるためには、世間のモノサシではなく、自分のモノサシで生きること。「自分はなにが好きなのか」を明確にわかっていることだ。

     そして、自分の価値観を通す代わりに、人の価値観、その土地の価値観も、それはそれとして柔軟に受け入れながら生きていく……。

     そもそも、世間の評価やルールに合わせたり、人と比べて足りないことを嘆いていたりしていたら、旅するような暮らしは、ぜったいにできないだろう。

     人がどうしているかは関係なく、自分のモノサシで、「これは必要」「これはいらない」「これは、この程度でいい」などと言える人は、やりたいことや求める暮らしを自由に追求できる。もちろん、その分、手放すものも、なにかしらあるものだが。

     また、自分の「好き」を追求するのは、「好き」には、とてつもない大きな力があるからだ。

     たとえば、仕事であれば、好きなことは、いくらやっても苦にならないし、いくらでも好奇心が出てきて、もっと知りたい、もっと成長したいと思う。逆にいうと、好きなことでなければ、続けられないではないか。

    「好きなことと仕事は、切り離したほうがいい」という意見もあるかもしれない。もちろん、仕事のほかに好きなことがあるのは、大いに結構だ。が、しかし、私は、さまざまな職種をやってみた結果、本物のプロフェッショナルになるには、好きなこと以外は不可能だと身をもって理解した。大してやりたくないことを、仕事と割り切って毎日8時間、何十年と続けるのは、かなり苦痛なことではないか。

     住む場所を変えたり、家庭の事情で一時期、仕事をやめたり、ほかの仕事をしたり……と、いろいろな事情があっても、やはり一生を通して「好きなこと」、かつ「人の役に立てること」を追いかけていってほしい。少しずつでも、なにかを積み重ねてほしいと思う。そんな「好き」な道こそ、いちばん力が発揮できて、自分を輝かせてくれる道ではないだろうか。

    第六条 先の予定を決め過ぎない。モノをもちすぎないこと

     旅をするように自由に生きるためには、先の予定を決め過ぎない、モノを持ちすぎないことだ。たとえば、人との付き合いの予定をギッシリと入れてしまうと、大事な人から誘われても、会うことができず、チャンスを逃してしまうだろう。「今日は、アレをしたい!」と思っても、自分で決めた予定を遂行することに追われてしまう。

     また、マンションや家を買うために長期のローンを組むことは、それに対して、しかるべき労働時間を約束しなければならない、ということだ。

     安定した仕事で返済の目処がたち、それが励みになるならいいが、先のことはわからない。事故や病気になって働けなくなることだってある。家族の事情が変わることもある。「どうしても、いま、これが欲しい」「どうしても、いま、これをしたい」といったことが出てくるかもしれない。

     私が好きな旅人の一人は、「ムーミン」に出てくる「スナフキン」だ。彼は、自由と孤独と音楽を愛する旅人で、冬が来る前に南へ旅立ち、春の訪れとともにムーミン谷に戻ってくる。

     スナフキンは、ものをもつことを激しく嫌って、「もちものを増やすことは、ほんとうに恐ろしい」と言っている。「長い旅行に必要なのは大きなカバンじゃなくて、口ずさめる一つの歌さ」と。スナフキンがときどきハーモニカを吹いているのは、自分を癒やしているのかもしれない。

     予定を決めると、それに振り回されることになる。モノをもつと、それにとらわれることになる。できるだけ自分を縛らないで、そのとき、そのときの感覚を大切にしているほうが、ゴキゲンでいられるのだ。

    第七条 むずかしく考えすぎず、ものごとを明るく、シンプルにとらえること

     前回、人からコントロールされなくなることが恐怖であったと書いた。ともかく自分の意思で動き出し、しかもだれかに求められないかぎり、まったくお金が入ってこない状況に、私は途方に暮れた。

     そんな恐怖を克服する道は、〝慣れ〟しかないように思う。

    「やればできるじゃん」「そんなにむずかしくない」「いや、むしろ、組織で働くより、かんたん」という、ちいさな成功体験をつくっていくことだ。

    なんでもいいから動いてみて、ほんの少しでも収入を得る。「やればできるじゃん、私」という自信ができるところまで、あれこれやってみる。動いているうちに、恐怖はなくなっている。

     もしかしたら、私たちは、生きることをとても複雑に、むずかしく考えているのではないかとも思う。ほんとうは、食べて寝て、働いて……のシンプルなことの繰り返し。その簡単さを認めず、余計なもの、要らないものを求めようとすることが、恐怖のもとになっていく。

     映画の名俳優で名監督のチャールズ・チャプリンの、こんな名言がある。

    「人生は恐れなければ、とてもすばらしいものなんだよ。人生に必要なもの。それは、想像力と勇気、そして少しのお金だ」

     これは、自由に生きるシンプルな条件を集約したものだ。最高のドラマを描いて、失敗を恐れずに、やってみる。そこでなにかをつかんだら、また新しい挑戦をする……。その繰り返しで、満足できる人生はできあがっていく。

     自由に生きるためには、「少しのお金」も必要だ。それは、「心の余裕」という言葉にもおきかえられるのかもしれない。お金の余裕、心の余裕がなければ、私たちは、想像する自由も、道を選択する自由もないだろう。

     そして、この言葉のいちばん重要な意味は、「人生は恐れなければ、とてもすばらしいものだ」という部分にあると思う。

     むずかしく考えすぎない。恐れすぎない。悲観しない。だれがなんといおうと、「人生はすばらしいものだ」と明るく信じ続けることは、そんな人生を送れる自分を信じ続けることだ。このことこそが、旅するように生きるためにいちばん必要な精神だと、私は思っている。

     冒頭に書いたように、ある有名作家の旅エッセーを読んだことがきっかけで、私は同じように旅するように生きることを考え始めた。

     そして、約十年後のある日のこと。あのエッセーと同じようにエーゲ海の島々を旅しながら、本を書いていることに、ふと気づいて、おどろいた。

    私は長い間、「やることをやったら、奇跡のようなことが起きる可能性はある」と、かなりノーテンキに、そしてしつこく信じていた。いまもそれは、実感として信じていることである。

     リアルな人生のドラマは、小説よりもずっとおもしろい。「これから、どんなすばらしいことが起こるかわからない」と明るく信じているかぎり、旅するように生きていけるのだ。

    有川真由美

    有川真由美(ありかわ・まゆみ)作家、写真家。鹿児島県姶良市出身。熊本県立熊本女子大学生活科学部生活環境学科卒業、台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程修了。 化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性へのアドバイスをまとめた書籍を刊行。46カ国を旅し、旅エッセイも手掛ける。著書はベストセラー「感情の整理ができる女(ひと)は、うまくいく」「30歳から伸びる女(ひと)、30歳で止まる女(ひと)」「仕事ができて、なぜかうまくいく人の習慣」(PHP研究所)他、「感情に振りまわされない―働く女(ひと)のお金のルール」「人にも時代にも振りまわされない―働く女(ひと)のルール」(きずな出版)、「好かれる女性リーダーになるための五十条」(集英社)、「遠回りがいちばん遠くまで行ける」(幻冬舎)など多数。韓国、中国、台湾でも翻訳される。内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室「暮しの質」向上検討会委員(2014-2015)。日本ペンクラブ会員。

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