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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 群ようこ 『ネコと昼寝 れんげ荘物語』

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50代、独身、無職。持たない彼女の豊かな毎日

◆『ネコと昼寝 れんげ荘物語』群ようこ・著(角川春樹事務所/税抜き1400円)

 中年の独身女性が主人公の物語が静かな人気を呼んでいる。きっかけは「マンションに住む人たちの話を書いてはいかがですか」という担当編集者の一言だった。そのとき群さんの頭には「マンションではなく、下北沢あたりの古い木造アパート」が浮かんだという。

「年代の違う人が集まっていると、小説として面白いかなと。そうして人物が大体できあがったところで書き始めたら、よそのネコにあげるなら水がいいかなとか、図書館にあのおじいさんがいたら嫌だなとか、主人公の思いが言葉になってざあっとおりてきた。それを受け止めながら書き進めている感じです」

 だからか、まるで呼吸するかのように物語に入り込み、自然とれんげ荘の住人になったような気分で読み進められるのは。還暦過ぎのクマガイさんから謎の美女チユキまで、人物が出そろった第1弾が出たのは2009年。断捨離ブームを先取りしたかのような始まりだった。

「リサーチをして書いたことはないのですが、子どもの頃から、人を観察することは好きでした。小学校のときの学級委員に『おまえが一番怖かった』と言われたことがあります(笑)」

 鋭い観察眼は細かな描写で炸裂(さくれつ)する。主人公のキョウコは、働いて稼ぐ人生より、網戸をくぐって虫がバタバタ入り込みたそうにしているさまを眺めたり、たまに乗る電車にわくわくしたりする道を選んだ。節約しても貯金は減っていく。それでも働かないのは、会社員時代の気苦労がトラウマになっているからだ。バイトすらしないでいるキョウコの背を「不安がなかったら人として進歩がない」と年長者・クマガイさんの名言が押す。読者の中には本当に会社を辞めてしまった人もいるとか。

「不景気だからあまり無謀なことはしてほしくないですが、嫌でたまらないのに辞められなかった人が、病気になってしまう前に、この本をきっかけに辞める勇気を持てたとしたら嬉(うれ)しい。私自身、若い頃は6回転職しています。会社で働くのが大好きで、会社にいると楽しくてしょうがないという人はあまりいないはず。けれど家族や生活のために毎日我慢して働いている。人によっては結婚して家庭に入る道もありますが、親族とのおつきあいも会社の人間関係以上に辛(つら)いことがある。それなら、生活費が貯(た)まったところで辞める選択肢もあると思うんです」

 社会のレールから潔く降りたキョウコだが、決して自分勝手な人間ではない。アパートの住人が倒れると病院に付き添ったり、姪(めい)の面倒を見たり、「無職なんてご近所に恥ずかしい」と怒る母親にどう接するか悩んだり。ともすれば「毎日同じ」になりそうな日常を一つ一つ書き留めていく群さんの筆は、優しい。

 このシリーズがある限り、私たちはれんげ荘の住人と一緒に年を取っていけるし、日々を大切に見つめ直すことができる。

 大きな事件は起こらない。しかし、本作のラストではキョウコの日常を揺るがす出来事が起きる。自分だったら、と誰もが身につまされるはずだ。心地よさだけでなく、油断すると深淵(しんえん)に落ちる人生の辛辣(しんらつ)さも見せてくれる。

(構成・柴崎あづさ)

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群ようこ(むれ・ようこ)

 1954年、東京都生まれ。本の雑誌社入社後エッセーを書きはじめ、『午前零時の玄米パン』でデビュー。鋭く軽妙な語り口で知られ、著作多数。れんげ荘シリーズには『れんげ荘』『働かないの--れんげ荘物語』があり、本作は3作目にあたる

<サンデー毎日 2017年3月12日号より>

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