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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 奥野修司 『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の…』

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家族や恋人の霊が現れたとき、怖いと感じた人はいなかった

◆『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』奥野修司・著(新潮社/税抜き1400円)

 ノンフィクションは科学的に検証した事実を書く。しかし、この本が扱ったのは霊体験。実証性も再現性もない。

「不安でした。ですからがん治療を分析する本と並行して、この本を書きました。合理と非合理の世界を往復することで、精神的なバランスをとったんです」

 震災の翌年、奥野さんは宮城県に通い、在宅緩和医療の医師として2000人以上を看取(みと)ってきた岡部健(たけし)さんと会っていた。彼から“お迎え”の話をされた。死の間際に亡くなった家族が現れることだ。被災地の“幽霊譚”を取材すべきだと、強く勧めたのも岡部さんだった。

「不思議な体験をした人はたくさんいました。なかでも家族が関わる話に絞り、30人ほどのお話を詳しくうかがいました。霊体験は怖いものと思われますか? でも、家族や恋人の霊が現れたとき、怖いと感じた人は一人もいませんでした。聞いている私も怖くなかった。なぜなら霊体験は、大切な人との大きな物語の一瞬だからです」

 取材を始めた当初は、なかなかうまくいかなかったという。

「怪しい話だと一蹴される心配や、プライベートな内容を人に伝えるためらいが、口を重くします。でも、いざお会いしたら、1時間の約束が3時間に延び、長いときは1泊2日で聞き通したこともあります。長い間、胸に抱えていたのでしょう。最後には、誰にも話せなかったことを聞いてくれて安心した、と皆さんが言ってくれました」

 4人の家族を亡くした女性が、天皇、皇后両陛下の慰問をふりかえる。「あのとき陛下にお声をかけてもらえなかったら、今頃私たちはこの世にいなかったでしょうね。陛下が来られるまで、私たちは誰からも声をかけてもらえなかったんです」と。

「誰にも声をかけられないと、自分の殻に閉じこもり、人間関係がもてないほど孤独感に落ちていきます。なんて声をかけたらいいかと考えると、躊躇(ちゅうちょ)しますよね。黙って傍(そば)にいる。そっと肩を叩(たた)く。それだけでいいのだと、僕も教わりました」

 1人につき、3回以上は話を聞くと決めていた。会うごとに話が変わっていくこともあった。

「がん治療の取材を通してわかったのは、亡くなっていく人にとっても、見送る人にとっても、死の瞬間を納得することが大事だということです。被災で家族を亡くした人には、そのための準備時間がありませんでした。だから納得できるかたちを探して、無意識のうちに話を微妙に変えていくのだと思います」

 被災地のなかでも、霊体験が語られたのは東北地方に特有だ。

「『遠野物語』が書かれた土地です。あの世とこの世の境界が曖昧で、見えないものを潜在的に信じられる風土なのでしょう。近代化をはかる明治政府によって、霊なるものは否定され、陰に追いやられた。でも、しばらく前の東北では、葬式でお坊さんが読経する前に、オガミさまが死者に代わって語るんです。人々は、表の文化を立てつつ、ずっと陰と親しかった。本来の日本の姿が残っているのです」

 まだ、喪失の苦しみを語れずにいる人がいる。「この本のような話を、自由に喋(しゃべ)れる環境になってほしい」

(構成・五所純子)

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奥野修司(おくの・しゅうじ)

 1948年、大阪府生まれ。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。著書に『看取り先生の遺言 がんで安らかな最期を迎えるために』『「副作用のない抗がん剤」の誕生 がん治療革命』など

<サンデー毎日 2017年3月19日号増大号より>

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