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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 国谷裕子 『キャスターという仕事』

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言葉と感性を研ぎ澄まし 伝え手として生きていく

◆『キャスターという仕事』国谷裕子・著(岩波新書/税抜き840円)

 わかりにくいことをわかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える。-映画監督・テレビドキュメンタリー演出家の是枝裕和さんの言葉に、国谷さんは共感した。

 わかりやすさが求められるテレビ報道の世界で、23年間、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務めた。視聴者の目線に立った平易な語り口の「前説」や、質問を重ねて課題の深さを浮き上がらせる「ゲストトーク」が記憶に新しい。

「皆で考えるためのプラットフォームを提供するつもりでやっていました。それが今、分断されつつあるのを感じます。アメリカのトランプ大統領は、自分についてネガティブな報道をするメディアをフェイクだと言い切る。まるでメディアを“余計なフィルター”だと言わんばかりに、チェック機能が介在しないツイッターというツールで感情的な言葉を直接発信するのです。その一方で多くの人たちが、ブログやネットニュース、あるいは仲間内で流通するSNSから、自分の感情にフィットする情報を選択して得ています。多角的な視点が失われ、個人が翻弄(ほんろう)される状況です」

 若き日々、アメリカでの経験が国谷さんをつくった。

「さまざまな人種が暮らす国で過ごし、異なる視点がたくさんあることが肌に染み込みました。それぞれの立場から、多角的に議論されます。そこで言葉のパワーを感じるとともに、コンプレックスも感じました。外国では『あなたはどう思う?』とよく聞かれます。自分の意見や背景を、自分の言葉で説明することが求められるのです。もっと日本のことを理解し、日本語で表現したい。その思いから、私は日本に帰ることにしました」

 言葉に恐れを抱きながら、言葉を研ぎ澄まし、言葉に懸ける。国谷さんの姿勢が、本書から伝わってくる。

「クローズアップ現代では、問題を個々に取り上げました。ただ実際には、縦割りで課題を解決することには限界があります。そこには私自身の反省もあります。たとえば私は、行政のコスト削減を評価しましたが、それが生んだものの一つが保育士の給与削減とも言えます。私が伝えたこと、またメディアの言葉が、ひるがえって人々の生活を圧迫する空気をつくってしまったわけです。分断が進む今だからこそ、諸問題を横串で刺し、全体的に見通せる捉え方が必要だと思っています。それを発信するためにも、勉強を続けます」

 最後に、大切に抱きしめている言葉を教えてくれた。

「ピアニストの秋吉敏子さんに取材したときのことです。単身でジャズの本場アメリカに渡り、さまざまな苦難をへて、世界的な評価を得た。それでも彼女は、自分に目標を課していました。『どうしてそんなに自分に厳しいのですか』と質問したら、『私は自分に親切ですよ』と言うのです。自分への厳しさこそが自分にチャンスを与えてくれる、と。私は勇気づけられました。こんな素敵(すてき)な言葉を引き出して、伝えていくことができたら。それが私の役割だと思っています」

(構成・五所純子)

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国谷裕子(くにや・ひろこ)

 大阪府生まれ。1979年、米国ブラウン大卒業。NHK・BS「ワールドニュース」「世界を読む」、NHK総合「クローズアップ現代」のキャスターを務める。ギャラクシー賞特別賞など受賞。

<サンデー毎日 2017年3月26日号増大号より>

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