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あの時から

熊本地震復興へ 阿部牧場 阿蘇の自然、価値痛感

 「1日40トンの水をどう確保すればいいか」。ブランド牛乳「ASOMILK(アソミルク)」を生産する阿部牧場(同市)の阿部寛樹社長(39)は熊本地震直後、頭を悩ませた。熊本県阿蘇市の地下水を乳牛約470頭の飲み水にしており、生乳を集める配管など製造装置の洗浄にも利用していた。大量の水の確保は生命線だった。

     本震があった昨年4月16日。自宅から1キロ離れた会社まで道路の陥没をよけながら車を走らせ、午前5時前にたどり着いた。牛舎は倒壊していなかったが、牛舎の扉を突き破って牛が外に出ていた。揺れでパニック状態になっていたのか、大きな鳴き声を上げていた。牛をなだめて牛舎に戻したが、会社敷地内の2カ所から地下水をくみ出していた水は地震で地盤が変化したためか、出なくなっていた。

     まず、川の水を飲み水にすることを考えた。16日はポンプを使って貯水槽に川の水を入れ、配管を通して牛舎まで送ろうと試みた。しかし、地中にある4カ所の配管から水が漏れ出してしまった。従業員ら約10人が修理し、翌17日には完了した。だが、川の水は地下水と比べると濁っていて飲み水には適さず、牛乳も出荷しなかった。とはいえ、搾乳を続けなければ、牛は乳腺炎などの病気にかかってしまう。「私たちにとって命と同じぐらい大事な生乳を泣く泣く捨てるしかなかった」と阿部社長。廃棄した生乳は16、17両日で12・5トンになった。

    湧水地の水をトラックにくむ阿部牧場の社員。牛舎などに水を供給するため1日に十数往復した=阿部牧場提供

     次に考えたのは近くの湧水地から水を運ぶことだ。地権者から承諾を得て会社から2キロ圏内の3カ所の湧水地から水を運んだ。1トンタンクを積んだトラック1台を1日十数往復する“ピストン輸送”。18日以降も2トンのタンクを二つ積んだ2台のトラックで、行き来を繰り返した。5月2日からは1カ所の湧水地から自社まで配管をつなげた。4日後から本格的に生産を再開でき、まもなく出荷量も地震前に戻った。

    低温殺菌などにこだわった「ASOMILK(アソミルク)」。JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」で運行当初から提供されて話題になった=阿部牧場提供

     「今回の地震で、私たちの暮らしは阿蘇の自然と密接に関係しているのだと改めて感じた」と阿部社長。5月からは阿蘇地域支援のため、自らが率先して近くの農家と協力し、牛乳のほかソーセージなどを詰めた「阿蘇復興支援セット」(4000~6000円)をインターネットで販売した。既に予想以上の2万2000セットが売れ、売り上げの一部を阿蘇神社の復旧費用として寄付した。

     最近、うれしいことがあった。小学3年生の長男が「お父さんは、地域全体のことも考えて仕事をしている」と書いた作文を学校で披露してくれたことだ。「子供たちがこれからも誇れるような阿蘇にして元気を取り戻したい」。阿部社長は牛舎の増築などを前倒しし、今年2億円を投資して生産能力を1・7倍にする計画だ。復興へ地道な取り組みが進んでいる。【小原擁】


    阿部牧場

     1968年創業。1瓶(900ミリリットル)840円程度する高級牛乳「ASOMILK(アソミルク)」を生産、販売している。国際味覚審査機構(ベルギー)による食品コンクールで優秀味覚賞の三つ星を獲得するなど、味わいに定評がある。自社工場で、飲むヨーグルトなども製造する。2016年12月期の売上高は約5億円。従業員は約30人。

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