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「欲も得もなく、読み手の存在なんか考えない。右顧左眄(うこさべん)せず、文学青年のたわ言を80歳まで書き続けたい」。作家、西村賢太さん(49)が語る。新刊の連作小説集『芝公園六角堂跡』(文芸春秋)で作風の幅を大きく広げてみせた。
北町貫多は私小説作家。西村さんの分身であり、その小説で主役を張り続ける俗悪な人物だ。2015年2月のある夜、貫多はあこがれのミュージシャンのライブを聴きに東京タワーに近い高級ホテルを訪れ、豊かな音楽世界を堪能して外に出た。貫多は文学上の師に対して<甚だ顔向けのできぬ思い>を抱いている。少し歩いて芝公園の一角に立つ。そこは自ら「没後弟子」として敬愛する私小説作家、藤澤清造(1889~1932年)が凍死した場所。<何(な)んの為(ため)に書いているかと云(い)う、肝心の根本的な部分を見失っていた>
それは、11年に『苦役列車』で芥川賞を受賞し、破滅型私小説の系譜を継ぐとして時の人となった西村さん自身の思いを映す。「それまで月命日の29日には何があっても清造の石川県のお墓に参っていたのですが、テレビの仕事を優先することがあって……。貫多が芝公園に行く場面は自動筆記というか、一気呵成(かせい)に書きました」
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