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人間を主役にせず 空間と味を継いでいく
◆『昭和の店に惹かれる理由』井川直子・著(ミシマ社/税抜き1900円)
染め分けもくっきり、布地もぱりっとした暖簾(のれん)。長いこと使われているカウンターの、頼りがいある重厚さ。地味な色調ではあるのに、とても眩(まぶ)しいものとしてこちらの目に映るもの。
東京の鮨(すし)屋、おでん屋、秋田のバーなど、食べもの飲みものを扱う10軒の店の主(あるじ)に聞いた話から成る『昭和の店に惹かれる理由』は、その眩しさの理由を探る本だ。
昭和の店。つまり、少なくとも30年以上は営まれているに違いない。ただ、店は、森にある木や海辺の岩とは違って、ただ自然に任せ、年月が過ぎるのに寄りかかっていれば育ち磨かれるものではない。律義さや愚直さ、あるいは頑(かたく)なさをもって、人がめんどうをみてこそ、あの眩しさがおもてにあらわれるのだから。店を磨くための、昭和的なやりかたは「わかりやすさもなければ合理的でもなく、じつはそんなに自由でもない…
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