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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 小川洋子 『不時着する流星たち』

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作家にとって、どうでもいい人は世の中に一人もいない

◆『不時着する流星たち』小川洋子・著(角川書店/税抜き1500円)

 短編を一つ読み終わると、次のページに名前が記してあり、プロフィルが数行書いてある。そこで読者は、今読み終わったばかりの短編と、次ページに書かれたかつて実在した人物の関係について思いをめぐらせることになる。この人が作品のモデル? いやどうも、それだけではなさそうだ。

「私は、あらかじめ自分の中に書きたいことがあるのではなく、何かしら現実的な出会いがあって、そこから小説を書き始めます。この本は連載をまとめたものですが、まず私が継続的に関心を持っているヘンリー・ダーガーを意識しながら一編書いてみました。すると作品の中に特にダーガーは出てこない(笑)。でも明らかにダーガーのことを思いながら書いていて、なんだかそのことがおもしろくて、全部で十編までいきました」

 ヘンリー・ダーガーは少女戦士の長大な絵物語『非現実の王国で』で知られる。生前は誰にも作品を見せることなく、死の前年になって捨てられようとしていたゴミの山からアパートの大家によって作品が発見されたという特異な人物だ。この本に収録された最初の短編「誘拐の女王」はダーガーにインスパイアされて書かれたものだが、といってそれは伝記的な事実をなぞるものではない。

「人間誰しも、自分の人生を考えた時に、本来の居場所とは違うところに不時着してしまったような感覚ってあると思うんです。それとどうにか折り合いをつけながら日々過ごしている。しかし世の中には、どうしても折り合いをつけられない人たちがいて、そうした人々のキラキラした輝きに惹(ひ)かれます」

 どんな悪天候でも必ず散歩をする人。歩く時に歩数を数えずにいられない老人。十三人兄弟の一人として生まれ、小さい子にも「アイアイサー」と敬礼する叔父さん。世間の常識から逸脱した登場人物たちの起点になった実在の人物は、順にローベルト・ヴァルザー、グレン・グールド、牧野富太郎だ。散歩を好んだヴァルザーは1~2ミリの微小文字を書いた人で、グールドは極度に低い椅子で体を縮めて演奏するので有名だった。千五百種の植物に命名した牧野は実際に子供を十三人もうけている。

「どこか過剰な人ばかりですよね。私は二十代でデビューして三十年書いていますが、人間を見る目が変わってきたと感じています。昔なら“こんな人と関わるのはいやだ”と思ったような人でも、そこに立ち尽くしている人、こわれちゃった人、まさしく不時着した人をこそ、本当は書きたいんだ、ということがようやくわかってきて、今回の連載でその思いを強くしました。作家にとって、どうでもいい人は世の中に一人もいません」

 それにしても、なんてチャーミングな人ばかりが呼び出されていることだろう。

「この人たちはみんな同じ王国の住人で、この本の中に里帰りしているのかもしれません。お盆ですね(笑)。そしてまたそれぞれの場所に戻っていく」

 小川さんのこの説明のように、なぜだろう、なつかしさといとおしさを強く感じさせてくれる不思議な本である。

(構成・北條一浩)

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小川洋子(おがわ・ようこ)

 1962年、岡山県生まれ。88年「揚羽蝶が壊れる時」(海燕新人文学賞)でデビュー。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。読売文学賞と本屋大賞をW受賞した『博士の愛した数式』ほか著書多数

<サンデー毎日 2017年4月2日増大号より>

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