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私の出発点

小川洋子さん『妊娠カレンダー』 理由ないからこその悪意

作家の小川洋子さん=鶴谷真撮影

『防かび剤PWHには強力な発癌(がん)性。人間の染色体そのものを破壊する!』

 あの時の一ページが、ぼんやり頭の中で揺らめいた。

 皮も実もしっとり混じり合い、所々ゼリー状のかたまりができる頃、姉と義兄が帰ってきた。姉は真直(まっす)ぐキッチンに入ってきた。

「何? この素敵(すてき)なにおいは」(『妊娠カレンダー』文春文庫より)

 現代日本文学を代表する作家の芥川賞受賞作が『妊娠カレンダー』である。発表した頃は岡山県倉敷市に住む主婦だった。出産直後、母子手帳の妊娠カレンダーを見た瞬間に「書ける」との直感を得て、子育ての合間に食卓に置いたワープロをたたいた。「当時は文芸誌に原稿を送ってもなかなか掲載されず、書き直す日々でした。社宅の集合ポストにゲラの入った茶封筒を見つけると本当にうれしかった。『一歩前進!』って」

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