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風知草

「下流」と無関心=山田孝男

 傾きかけたとはいえ、日本は経済大国である。

     自分が知るかぎり、貧困など存在しない--と思いがちだが、ソーシャルワーカー、藤田孝典(34)に言わせれば、そんなことはない。表面からは見えぬ深層で貧困が広がっている。

     その現実に無関心であること、無関心や誤解に基づいて福祉を憎む風潮を、藤田は問うている。

        ◇

     2015年の「新語・流行語大賞」候補にノミネートされた「下流老人」は藤田の造語である。

     藤田は埼玉県で特定非営利活動法人(NPO)「ほっとプラス」を開設。十数年来、首都圏の生活困窮者の相談に乗り、助言、支援に取り組んできた。

    ・発病や事故で高額医療費

    ・熟年離婚で年金分配

    ・子が親に依存、寄生

     --など、誰の身にも起こり得るリアルな事例を書きとめた「下流老人」(朝日新聞出版、15年)が正続編合計で25万部。

     著者は昨秋、衆院厚生労働委員会に参考人として招かれ、高齢者の貧困について証言している。

        ◇

     貧困に2種類ある。

     絶対的貧困と相対的貧困である。生死にかかわる絶対的貧困は途上国の問題と言える。他方、相対的貧困とは、たとえば「携帯電話は持っていても、新しい服など買ったことがない」というたぐい。つまり所得格差の問題であり、先進国の課題に違いない。

     標準世帯の所得を基準とし、一定の計算式で導く低所得世帯の存在比率が「相対的貧困率」である。この指標は政府が調査を始めた1985年の12%から増え続け、12年に16・1%へ達した。経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国間の比較(10年)で6番目に高いという。

     藤田の実践に戻ろう。

     「ほっとプラス」に相談を持ちかけるのは老人だけではない。現代の貧困は思わぬ形で若者、中年、女性にも襲いかかる。

    ・学用品を買えぬ子

    ・暗黒企業で疲弊の社員

    ・介護離職で親子共倒れ

    ・風俗で稼ぐ女子大生

     --藤田は昨年6月から毎日新聞ウェブサイトの中の「経済プレミア」でこれらの実例を報告。それがまた反響を呼んだ。連載を本にまとめたものが「貧困クライシス」(毎日新聞出版3月刊)である。

        ◇

     「貧困クライシス」そのままを描いて話題の映画がある。「わたしは、ダニエル・ブレイク」(I, Daniel Blake 英仏ベルギー合作、16年)だ。

     舞台は英国北部のニューカッスル。妻に死なれ、心臓病で就労できぬ59歳の大工が、雇用支援手当を申請した。だが、役所は「就労可能」と判定。求職に不熱心と見なされ、求職者手当さえもらえない。

     他方、手続きに遅刻して給付金をもらえず、2児を抱えて途方に暮れるシングルマザー。救貧の配給を受け、売春宿で稼ぎ、大学進学を目指す……。

     ケン・ローチ監督、16年カンヌ映画祭最高賞。タイトルは「オレは、たかり屋でも、社会保障番号でもない、一人の人間だ」という怒りを表している。

     週末、有楽町で見た。満員だったが、「ラ・ラ・ランド」や「君の名は。」の観客動員数とは比ぶべくもない。その意味では関心が非常に高いとも言えぬ。

     人間、万事に関心を払うことはできないし、払うべきでもない。だが、何に無関心かによって社会の質が決まる。(敬称略)=毎週月曜日に掲載

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