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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『スウィングしなけりゃ意味がない』『おあとがよろしいようで』ほか

今週の新刊

◆『スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀・著(角川書店/税別1800円)

 心躍る小説だ。1940年代、ナチス政権下のドイツ・ハンブルク。独裁の魔手が支配する空気の中、悪ガキたちが夢中になったのは、なんとジャズであった。

 佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』は、著者名を隠せば、ドイツ発の翻訳作品かと思うぐらい筆致はリアルだ。裕福な家の子どもエディを語り手に、ピアノの天才マックス、男の子みたいなクラリネットの名手アディなど、元気な中学生たちが小気味いいほど暴れまくる。

 なにしろ、酒にダンス、不純異性交遊、そして禁制音楽と、青春を謳歌(おうか)する姿は、戦後のアメリカの若者みたい。彼らの奔放な姿を通して、著者は人々を縛り抑圧するナチス政権を嗤(わら)い、批判する。これは新しいナチス文学なのだ。

 ダンスパーティーで突如、「シング・シング・シング」を演奏する熱い夜。歓喜する客。「おれは確信したよ。正しいのはこっちだ」と仲間が言う。楽しいことこそ正しい。そう少年たちは教える。

◆『おあとがよろしいようで』オカヤイヅミ・著(文藝春秋/税別1050円)

 オカヤイヅミ『おあとがよろしいようで』は、人気作家15人に食事しながら話を聞き、その様子を漫画にしたコミックエッセー。彼、彼女への質問は「死ぬ前になに食べたい?」。

 綿矢りさは、明日死ぬとなったら、食欲がなくなるのでと選んだのが「豆腐」。豆腐コースを食しながら、死生観、臨死体験、太宰への憧れを語る。死ぬとわかっても「やっぱり小説を書きたいですね」と、意外な作家魂が、食の話題からうかがえたりする。

 円城塔は宇野千代考案の「極道すきやき」を所望。火気厳禁の文藝春秋社地下フロアで、IH調理器にて再現する。「肉とブランデーと卵とごま油が(中略)まったく調和しない」不思議なすきやきを食した後に、「たぶんつまんないことで死ぬんですよ」と円城は答えている。

 ほか、西加奈子、桜庭一樹、村田沙耶香、春日太一、島田雅彦などが登場。死と食から、作家の本音や素顔が見えてくる。

◆『側近日誌 侍従次長が見た終戦直後の天皇』(高橋紘編)木下道雄・著(中公文庫/税別1400円)

 木下道雄は東京帝大法学部卒業後、内務省入りし、戦後まもなく皇室の侍従次長を務めた人物。『側近日誌』(高橋紘編)は、彼が職務上克明に残した昭和20~21年のきわめて貴重な記録。未曽有の混乱の中、退位論や遷都論、あるいは宮中祭祀(さいし)やマッカーサーとの会見など、昭和天皇がいかに行動し、いかに発言したかがつぶさに見てとれる。昭和6年、軍艦「榛名」から、見送る人々に挙手敬礼した天皇を、唯一目撃した著者。その感激が、極力感情を交えぬ日誌の背後にある。

◆『ルート66』キャロル・オコンネル/著 務台夏子/訳(創元推理文庫/上下税別各980円)

 シカゴとロサンゼルスを結ぶ大陸横断道路『ルート66』。キャロル・オコンネル(務台夏子訳)は、ニューヨーク市警の美貌刑事マロリーを、この長大なルートを走らせる。マロリーの部屋で発見された謎の死体。そして彼女は行方不明に。相棒のライカーがカードの利用記録から後を追う。古い手紙を元に旅する彼女の行く手には、元神父の老人が率いるキャラバン隊と、過去の奇妙な殺人事件が待ち受けていた。ルート66の途上でいったい何があったのか? 緊迫の長編ミステリー。

◆『1984年の歌謡曲』スージー鈴木・著(イースト新書/税別907円)

 スージー鈴木『1984年の歌謡曲』は、歌謡曲とニューミュージックが融合した、記念すべき一年に的を絞り、そこで起きた音楽的変化を論じる。安全地帯「ワインレッドの心」に見る必殺のサビ、Jポップを予見するアルフィー「星空のディスタンス」、松本隆・細野晴臣コンビによる松田聖子「ピンクのモーツァルト」は「浮遊感歌謡」の傑作と、独自の視点で、音楽を腑分(ふわ)けしていく。この年に「東京人による、東京を舞台にした、東京人のための音楽」が誕生したという指摘は重要。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年4月16日増大号より>

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