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近影遠影

高橋一清・あの日あの人/94 大岡昇平 「成城だより」で元気取り戻す /島根

 桜の頃になると、大岡昇平さんを訪ねた日を思い出す。昭和49(1974)年4月、小田急線成城学園前駅を降り、1キロほど桜並木の道を北へ向かう。花のトンネルを抜け、右に曲がった所に大岡さんは住んでいた。

 歴史小説をめぐり書いた文章を一册の本にまとめるにあたり、その総集篇「歴史小説の問題」を「文學界」に書いていただく打ち合わせであった。論争好きで怖い作家との思いがあった。しかし、右眼白内障の手術を受け、眼帯をした大岡さんと向かい合うと、ただただ同情し守ってあげたいと思うのだった。

 旬日(じゅんじつ)して、いただいた原稿は、桝目(ますめ)に文字が納まっているのはわずかで、行間や余白に細かな字で夥(おびただ)しい書き込みがなされていた。そのまま印刷所に回すわけにいかず、原稿用紙に清書した。それは、後の入稿でも繰り返されることとなる。

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