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詩歌の森へ

「行きて帰る」の心=酒井佐忠

 橋本喜典氏の歌集『行きて帰る』(短歌研究社)が今年の迢空賞に決まった。戦後すぐ歌誌「まひる野」を創刊した窪田章一郎に師事、篠弘氏らとともに同誌を支えてきた。民衆詩としての短歌という考えに徹し、現実の中の自己の内面を深く見つめた。波乱の時代に病を抱えながら、戦中派の教師として生きた歌人ならではの、人生観照の深さに改めて心打たれる。

 <あこがれは行きて帰るの心なり谺(こだま)はかへる言霊もまた>。「発句(俳句)は行きて帰る心の味わいなり」との芭蕉の言葉が、歌人の中に珠玉のように存在した。すべての物事は「行きて帰る」。寂しげな山里にも春は来る。戦争に明け暮れた旧制中学時代、国の勝利だけを願う教師の中で、純粋に人間的成長を求めた先生もいた。<「人権」といふ語を知りしおどろきは戦争(いくさ)終りし十七歳(じゅうしち)の秋>。歌集中…

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