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岡崎 武志・評『戦場に行く犬』『落語と歩く』ほか

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今週の新刊

◆『戦場に行く犬』マリア・グッダヴェイジ/著(櫻井英里子・訳)(晶文社/税別2500円)

 犬は人間にとってよき友人であるが、よき兵士でもあった。マリア・グッダヴェイジ(櫻井英里子訳)『戦場に行く犬』は、戦場で活躍する犬たちの物語。

 ウサマ・ビンラディンの追跡と奇襲に参加し、彼を見つけ出したのが軍用犬「カイロ」だった。日本では知られていないが、カイロはヒーローになり、かのオバマ前大統領も面会を申し出たという。そのほか、軍の先頭に立ってパトロールし、強力爆弾を探し当てるなど貢献度は絶大である。

 著者は、「ハンドラー」(調教師)でもある兵士たちと犬の強い結びつきを取材する。ある兵士曰(いわ)く、彼女(メスの軍用犬)は「ユーモアのセンスがある」。彼のジョークには友人より先にウケるのだと言う。ともに生死を分かち合う「2人」だからこその話だ。

 「危険な任務を、世間の声援を受けず、日々こなす。その見返りに彼らがほしがるのは、褒め言葉やゴムボールだ」。犬好きでもそうでない人にもオススメ。

◆『落語と歩く』田中敦・著(岩波新書/税別840円)

 言われて初めて、自分も『落語と歩く』ことをしているぞ、と気づいた。東京なら芝、両国、神田など、落語の舞台だと歩いていてわかる。落語の登場人物になった気がして、うれしくなるのだ。

 落語名所探訪家を名乗る田中敦が、実践を通して、東西の落語と土地の結びつきをガイドしたのがこの本だ。たしかに「王子の狐」や「天王寺詣(まい)り」など、そのまま地名がタイトルになった噺(はなし)もある。それが現代に使われている地名だからこそ、ファンタジーやほら話の落語が今に生きる。

 「紋三郎稲荷」では、笠間から松戸まで、落語を紹介しながら移動するルートが紹介されている。そんなことがなければ、とても歩かない場所が、ぐっと身近になってくる。もちろん、道中に知ることのできるウンチクもたっぷり。

 各所に落語マメ知識やクイズが「コラム」になっているので、そこでひと休みして、ニンマリとしてください。つまり、この本自体が一つの旅になっている。

◆『私が語り伝えたかったこと』河合隼雄・著(河出文庫/税別680円)

 今年は河合隼雄没後10年。『私が語り伝えたかったこと』は、生前行った講演、インタビューを活字化。教育、家庭、自然破壊、宗教など、次代に伝えたい思いが語られる。たとえば「いじめ」。「無い」と言い張る学校を批判し、「ある程度あっても構わない」と言う。それに対してどのような対応が行われるかが問題なのであって、そこで教育の真価が問われる。よしもとばななは高校3年間、教室で寝て過ごした。それを「見守る」先生がいた。何が大切か、読みながら読者も考える本。

◆『老いる東京』佐々木信夫・著(角川新書/税別800円)

 遅々として進まぬ豊洲移転問題など、問題山積の小池都政。しかし『老いる東京』で佐々木信夫は、「問題はこれから」だと言う。2020年ごろから、人口減少、高齢化の加速、待機児童問題など、地方が抱える問題が首都で噴出する。東京の巨大化を肯定するか否定するか、そこで戦略選択が変わる。あるいは、大災害に際してのインフラ問題。ニュータウンの再生など、日本人の寿命が100まで延びる時代に、大都市、ひいては日本が取るべき道を、すべて具体的に提言する。

◆『批評の熱度』大井浩一・著(勁草書房/税別2500円)

 戦後最大の思想家にして、安保世代の支柱となった吉本隆明。『批評の熱度』は、新聞記者として、その晩年に親しく接した大井浩一による「体験的吉本隆明論」だ。『吉本隆明詩集』に始まり、『マス・イメージ論』『共同幻想論』など、主要著作をこと細かに読み抜いて、敬意を保ちつつ自分なりの読解で吉本にぶつかっていく。その「攻め」の姿勢がいい。「辛うじて彼と同時代に生き合わせた者の一人としての観測と考察」が、著者の感慨を超えて、この本を熱くしている。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 57年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年4月23日増大号より>

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