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<記者の目>災害時の福祉避難所=桐野耕一(医療福祉部)

熊本地震の際に高齢者施設に開設された福祉避難所=熊本市で昨年5月撮影、社会福祉法人リデルライトホーム提供

周知と整備、国の主導で

 災害時に障害者や高齢者らが過ごす「福祉避難所」が機能しない恐れがある。県庁所在市や政令市、東京23区など102市区を調査したところ住民への周知や、法律で義務付けられた指定が進んでいない実態が明らかになった。6年前の東日本大震災や昨年4月の熊本地震では、福祉避難所を利用できず苦しんだ障害者らも少なくない。それを知りながら、現状のまま放置するのは許されない。全国の自治体は災害時に住民に同じ苦しみを味わわせないよう、直ちに周知や整備に取りかかるべきだと強く訴えたい。

     調査は、災害時に福祉避難所が円滑に運営されるかどうか調べるため今年1~2月に実施。約3割の自治体が一般の住民が殺到するのを恐れ、開設予定の施設名や場所を周知せず、さらに約3割が民間の高齢者施設などと利用協定を結ぶだけで指定や指定の予定もなかった。国が指針で求める人員配置も約7割が「できない」と答え、半数の自治体が利用対象者の数を把握していなかった。3月5日や15日の朝刊で伝えたが、災害弱者への備えがここまで進んでいないことに正直驚いた。

     私は6年前、東京電力福島第1原発事故で多くの住民が避難した福島県の避難所を取材した。体育館や複合施設は最大2000人を超える避難者で埋め尽くされ、疲れた表情で床に横たわる高齢者や炊き出しの列に並ぶ子どもらの声を聞いて回った。その混乱ぶりに、都市部や広域で災害が起きれば同じような悲惨な状況に陥る可能性があるのだと覚悟させられた。

     原発事故の発生直後、福島県内の避難所に身を寄せた住民は7万人を超える。厳しい避難生活の中、障害者や難病患者らがどのような状況に置かれていたのか、当時の私は知らなかった。4年後、福島支局に赴任し、その実態の一部を知ることになる。全村避難した川内村の知的障害者施設では、入所者46人が一般の避難所に入ったが、ストレスのため奇声や大声を上げる人も出て居づらくなり、近くの通所施設に身を寄せた。しかし、薬が不足し、てんかんの発作を起こす人が複数出た。施設も狭く、広い場所を求め、さらに千葉県内の公設の施設に移ったという。

     熊本地震でも災害弱者への対応で問題が起きた。熊本市は民間の高齢者施設などと災害時に福祉避難所を開設する協定を結んでいたが、指定はせず、近隣住民が施設に詰めかけるのを危惧して周知もしなかった。そのためトイレなどの設備面から一般の避難所で生活できない複数の障害者が、車や崩れかけた家の中で過ごすことになった。障害者団体が地震後、「福祉避難所の存在を知っていれば、連れて行ってほしいと訴えた人も多かったはずだ」と怒りの声を上げたのは当然のことだ。

    「縦割り」があだ 担当も「知らぬ」

     こうした悲惨な状況や福祉避難所の重要性は何度も報じられ、自治体の担当者も目にしてきたはずだ。しかし、なぜ福祉避難所の周知や準備が進まないのか。そこには自治体内の縦割り組織の弊害があるように感じる。

     今回、102市区を取材すると、一般の避難所は危機管理課など防災担当が所管し、福祉避難所については福祉や高齢者の担当部署が所管しているケースが目立った。福祉の担当者に、災害対策基本法で福祉避難所の指定が義務付けられていることを指摘すると「知らなかった」「取材で初めて気づいた」との声を何度も聞いた。法律で義務付けられたことでさえこの程度の認識だ。国が指針で求める専門知識を持つスタッフの人員配置など到底達成できないのでは、とショックを受けた。

     福祉避難所の指定をするのは市区町村だが、都道府県にも責任がある。今回の調査の前に東京都にも取材したが、都の担当者は「指定のない利用協定のみの福祉避難所は現在把握中。周知の有無についても全ては把握していない」と説明した。そのような市区町村任せの状況で、首都直下地震の際に住民の命を守れるのだろうか。都道府県は市区町村ともっと連携して防災にあたるべきだろう。

     国の責任はもっと重い。20年前から旧厚生省の通知などで周知を求めているにもかかわらず、「周知したくない」などと考える自治体が、なぜ今もこれだけ存在するのか。国や都道府県も福祉避難所の場所を把握し広域で支援するため、法律で指定を義務付けているという意義も伝わっていない。自治体への啓発方法を抜本的に見直すべきだ。

    余力ある住民はボランティアに

     課題を突きつけられたのは国や自治体ばかりではない。住民も責任を負っていることを自覚すべきだろう。福祉避難所の避難者は自力で動けない人も多く、介助の手がいる。災害時に自分が無事で余力があれば、ボランティアとして駆けつけることを考えておく必要がある。また福祉避難所の開設が予定される高齢者施設などは普段から満床状態で、避難者を多数受け入れるスペースはない。これを理由に周知をためらう自治体が多いことを考えると、利用対象者以外は詰めかけるようなことは慎まなければならないだろう。

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