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「日ペンの美子ちゃん」完全復活 受講者3割増

6代目「日ペンの美子ちゃん」=学文社提供

 1970~90年代の漫画雑誌で、裏表紙の広告漫画としておなじみだった「日(にっ)ペンの美子(みこ)ちゃん」。今年1月、6代目主人公の登場に伴い、活躍の舞台をツイッターに移して18年ぶりに連載を再開した。「完全復活」の効果か、デジタル全盛にもかかわらず、漫画でPRするペン習字通信講座の受講者数が前年に比べて3割も増えるなど、過去最高の伸びを見せているという。半ば忘れられていた昭和のキャラクターの復活は、いかに実現できたのか。そして、時を経ても変わらない彼女の魅力とは--。【増田博樹/統合デジタル取材センター】

 講座を手がける「学文社」(東京都新宿区)によると、美子ちゃんは1972年、雑誌「明星」(現Myojo)別冊付録の広告漫画に初登場。以来、99年まで4代27年にわたり、少女漫画雑誌などの裏表紙の9コマ漫画でペン習字をPRしてきた。時には「あなた、なんて字が下手なの!」などと歯にきぬ着せぬせりふも交えてペン習字をひたすら勧める姿勢や、最後のコマでずっこける安定の「オチ」も人気で、青春時代を過ごした人を中心に広く親しまれてきた。

 しかし、80年代以降、ワープロ、パソコン、携帯電話・スマートフォンなど電子機器の普及でペン習字人気はじりじりと低下。受講者は右肩下がりを余儀なくされ、漫画も99年に終了した。それ以降は、美子ちゃんのキャラクターこそ存続したが、00年以降の4代目と06年登場の5代目は、学文社ホームページ上のワンカットのイラストで登場する程度となり、露出は極端に減っていた。

「リアル美子ちゃん」も俎上に パロディー作家異例の起用

 そんな中、学文社は昨年3月、反転攻勢に向けた検討チームを設置した。主題はもちろん、今でも多くの人の記憶に残る美子ちゃんの再活用だった。しかし、絵をプロに依頼するにもブランクは長く、漫画家へのつても少ない。イラストの一般公募、同人作家とのコラボ、実在する女性を「リアル美子ちゃん」としてキャラクターにする--など、打開策が浮かんでは消える状態だった。

 一般公募に傾きかけた同年5月、ある社員がネットで偶然発見したのが、漫画家・服部昇大(しょうた)さんの漫画「日(にっ)ポン語ラップの美ー子(びーこ)ちゃん」。美子ちゃんに似た主人公が、日本語ラップの聴き方や向き合い方を本家の美子ちゃんのように熱く語る作品だ。美子ちゃん似、9コマ漫画、「安定のオチ」。明らかにパロディー作品だった。

6代目美子ちゃんの作者に起用された服部昇大さんのパロディー作品「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」=服部さん提供

 「懐かしく新しい美子ちゃん」を掲げた学文社の検討チームにとって、美ー子ちゃんの顔や髪形、服装、話し方などはイメージの通りだったという。しかし、パロディー作家に難色を示す意見も当然あった。魅力的だがどうすべきか? 服部さんは82年生まれで、学生時代には美子ちゃんを見る機会も少なかったはず。学文社チームは、まず、なぜ美子ちゃんなのかを聞くことにした。

右から初代~5代目美子ちゃんが登場する雑誌の裏表紙の「日ペンの美子ちゃん」。1999年の4代目で連載は終了したが、2007年に5代目が2回ほど復活したことがある=東京都新宿区の学文社で、増田博樹撮影

 分かったのは、服部さんが美子ちゃんファンで、70年代の画風に関心があるということ。その後の打ち合わせで、学文社で保管する初代からの原画に食い入るように見入る服部さんの姿に、チームのリーダーで営業部の浅川貴文課長は「服部さんは、歴代の美子ちゃんに敬意を持ってくれているし、私たちが目指していた『懐かしく新しい美子ちゃん』も描ける。実は、服部さんがいちばんの適任なのではないか」。大正時代創業の老舗による異例とも言えるパロディー作家の起用はこうして決まった。

 服部さんは、「最初に美子ちゃんの本家・学文社からメールで連絡を受けた時、『(訴えられるなど)終わった』と思いました。引き受けるにあたって、70~80年代の少女漫画を集め直して模写もかなりしました。歴代の先生方や少女漫画のファンでもあり、これほど光栄な仕事はないと思います」と話す。

 少女漫画に詳しい編集者兼ライターで、「大人の少女マンガ手帖」シリーズ(宝島社)などを手がける粟生こずえさんは「(パロディーを描く)服部さんの起用は英断。(手塚治虫の『ブラック・ジャック』のパロディー作品)『こんなブラック・ジャックはイヤだ』の作者つのがいさんが、最近手塚プロ公式の作家に迎えられ話題になりましたが、つのがいさんと服部さんの共通項は、原典を尊重しつつコピーではない新しい創作を見せてくれる点。こうした作家は今後も歓迎されるのではないでしょうか。最近は名作漫画のスピンオフも盛んで、受け入れる土壌も育っていると感じます」と話す。

すべり込みで発信実現 「ぎりぎりを攻める」作風も人気

1月6日に公式ツイッターで発信した6代目美子ちゃんが登場する第1作=学文社提供

 今年1月6日、公式ツイッター(@nippen_mikochan)上で服部さんの1作目が発信された。実は、描き手決定後も、美子ちゃんを活用した具体策には慎重意見も多く、提出した複数の企画案が却下されていた。受講申し込みが最も多い勝負の月である1月が迫った12月8日、浅川さんは三ツ井清貴社長に「ツイッターだけはスタートしたい。タイミングはここしかないです」と直談判。三ツ井社長はこれを後押ししたという。

 ぎりぎりでのスタートだった。しかし、ネットで6代目登場を発表すると、「懐かしい」「まだいたんだ!」など、想定外の反響を呼んだ。交流のある企業の事例から、3カ月で3000フォロワーとしていた目標は、2日後の1月8日で5000をクリアした。その後、さまざまなメディアが報じたことも拍車をかけ、4月28日現在、フォロワーは約1万7000に上っている。

 20年近く目立った露出のなかった美子ちゃんへの大きな反響。服部さんは歴代美子ちゃんについて、「広告漫画だから、単行本もアニメもない。でも、意識したことはないけれど、誰もがどこかで読んだ記憶がある普遍性が魅力なのでは」と話す。

 毎週水曜日、公式ツイッターで発信される服部さんが描く美子ちゃんは、あらゆる年齢層に「刺さる」作風が人気のようだ。6代目美子ちゃんは「(初回の72年から)永遠の17歳」。例えば、「(70年代にはやった)仮面ライダーカード集めていました!」「もうすぐ2度目の東京オリンピックを迎える17歳よ!」などのせりふで、オールドファンの心をくすぐる。

 また、森友学園や道徳教科書検定問題、ブラック企業、PPAPなど時事ネタにも切り込む。ブラック企業がテーマの作品では「まあ、あなた社畜ね! でも、こんな下手な字じゃブラック企業は辞められないんじゃないかしら?」と、美子ちゃんらしい「放言」も飛び出す。

漫画は旬の時事ネタを取り入れているのも特徴。森友学園と道徳教科書検定問題も4月はじめに登場した=学文社提供

 粟生さんは「自由に遊びながら『毒』を混ぜ、旬の時事ネタを盛り込むなど『うまい!』と思います。また、結構ふざけているのに宣伝パートが浮いていないのがすごいですね」と指摘する。服部さんは「炎上は怖いですが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)連載の漫画らしく、ギリギリのところを攻めていきたいと思います」と語る。そんな挑戦的な姿勢も評価されてか、リツイートが8000近くになる時もある。

お蔵入り企画復活 そしてあの「裏表紙」も

 学文社のペン習字の受講者数は、「デジタル全盛だからこそ、手書きの良さが再評価されてか」(浅川さん)、14年から前年比1割程度の増加に転じていたが、6代目登場後の今年1~3月の増加率は、前年同期に比べて3割増、サイトへのアクセスも同5割増と、これまでにない大幅なものとなった。

 年齢層も従来は30~40代の女性が主力だったが、20代や50代の女性、さらには男性にも広がっているという。浅川さんは「少なくなった受講者を、バブル期より多い競合が取り合う中、3割増はすごいことだと感じています。再登場した美子ちゃんを懐かしいと感じて『ちょっとやってみようか』と申し込んでくれたのだとしたらうれしいですね。キャラクターが45年間愛されていることには感謝の気持ちしかありません」と話す。

 この好調ぶりを受け、いったんはお蔵入りになった企画も動き出した。5月16~30日には東京・中野で歴代美子ちゃんの原画展が開催される。また、6コマ漫画を1コマずつに分け、東京メトロの都内6駅の電飾看板に展示してファンに探し出してもらう企画も5月中、実施する。そして、美子ちゃんの主舞台とも言える雑誌の裏表紙への再登場も検討中だという。

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